また冬がやってきた。
時が過ぎるのは早いものよね。
今年は雪が少ないので、ただただ寒いだけ。お風呂に入るのも大変だわ。
「室内に作るんだたわ」
お風呂は外だから服を脱ぐのも辛い。スウェーデントーチをいくつか置いて入らないと心臓麻痺を起こしそうよ。
「それなのに民宿は大繁盛よね」
この寒い中、馬車に揺られてやって来る。なんか、お金持ちの間では結構有名になっているみたいよ。
「お嬢ちゃん、早いな」
職人さんたちのところにパンを届けに行くと、職人さんたちが食堂に集まっていた。
「皆さんこそどうしたんです? こんなに早く?」
今はまだ六時前くらい。職人さんたちも朝は早いけど、朝食は七時くらいからだ。まだそれぞれの部屋にいる頃だ。
「今度、お貴族様が来るそうでな、その準備をしなくちゃならんのだよ」
「貴族が? 庶民向けのところに?」
お金持ちが来るようなところとして造ったけど、貴族を受け入れるようには造ってない。よく許したわね? いや、貴族から言われて断れないでしょうが、その貴族もよく来ようと思ったこと。
「何でもコンミンド伯爵様の紹介らしい」
伯爵様の?
「じゃあ、同じ伯爵様なんですか?」
身分社会で紹介するくらいなんだから同等かそれ以上の人ってことだ。
「爵位は息子に譲ったお方らしいな。隠居したから旅がしたいんじゃないか? 貴族は隠居すると暇になるって聞いたことがあるからな」
まあ、隠居ってことは引退したんでしょうから仕事はなくなるもの。元気なら暇で仕方がないでしょうよ。
「ってことは、貸し切りになっちゃうのかな?」
まさか他のお客さんと一緒に、ってことはできないでしょうよ。
「そうだな。ご高齢な方でもあるから防寒対策を今からやっておくのさ」
ほーん。確かにご高齢な方ならこの寒さはキツいわね。
「散歩道も作ってはどうです? 暖かい日には外に出るかもしれませんしね」
寒い日は続いているけど、たまに暖かい日もあるものだ。そのときには外に出るんじゃないかしら? ずっと室内にいるのもキツいものでしょうからね。
「そうか。レンラさんに話しておくよ」
「はい。では」
食堂を出て家に戻り、職人さんに聞いたことを皆に話した。
「ここも発展したものだ」
ここに住んでいたティナからしたら感慨深いものがあるでしょうよ。
「キャロル。今日、山を下りて冒険者ギルドに行ってくるね。また探し物依頼を受けてくるよ」
自分の食い扶持は自分で稼いでくると、たまに山を下りて探し物依頼を受けているのだ。
占い師じゃなく探し屋と認識されているのがおもしろいわよね。
「ボクも行く。肉がいっぱいだし」
今年の秋は鹿がたくさん出て、村にも被害が出るほどだったみたい。今年はゴブリンやら鹿やら散々な年みたいだわ。
鹿肉で作ったソーセージや塩漬け肉が結構あるのよね。さすがに毎日は飽きたわ。たまには魚が食べたいわ~。
「魚がいる川ってないものかしらね?」
いるのはいるんだけど、泥臭い魚ばかり。清流とかある山に行かないとダメなのかしらね?
朝食を終えたらティナとマリカルは家を出て、わたしは山の中に作った訓練場で木刀を振った。
ただ振るだけの訓練でも体力は付く、と思ってやっているけど、二十分もしたら飽きてくるもの。最後はいつも松ぼっくりを打って遊んでいるわ。ナイスショット!
「わたし、ゴルフの才能あったりして?」
木刀の先で松ぼっくりを当てられるんだから凄いことじゃない? これを活かしたら武器って作れないかしら?
何てこと考えながらゴルフクラブを作っていると、食堂のおばちゃんがやって来た。
「ここにいたかい。レンラさんが捜してたよ」
「レンラさんが? 何かあったのかしら?」
用があれば昼か夜にでも声をかけてきていた。誰かを使って捜すなんて珍しいことだ。
とりあえず家に戻ると、ルーグさんも一緒にいた。
「どうしました?」
「ちょっと見てもらいものがありまして」
ルーグさんが抱えていた箱を近くの作業台に置き、中から二つ折りにされた板を出した。
……え? チェス……?
チェスはやったことはないけど、盤はアニメで観たことはある。将棋ではないことくらいわかる知識はあります。
「これは?」
チェスでない可能性もあるので顔には出さず尋ねた。
「ジェドという遊戯盤です。この駒を使います」
うん。これ、チェスだわ。この世界ではジェドって呼ばれてんの?
「こういうのがあるんですね。お城では見ませんでした」
この作りからして職人が丹精籠めて作ったものだ。かなりの値段になるでしょう。なら、庶民にはなかなか買えるものじゃない。貴族の遊戯でしょうよ。
「海の向こうの国から流れて来たものです。貴族の間でも流行ってきたそうです」
バッテリーを作った人ではない? この世界、結構転生者がいたりする?
「で、なぜわたしに?」
「ジェドの遊び方を覚えて欲しいのです」
ルールが書かれた紙を渡された。結構細かいのね。
「わたしも説明を読んでみたのですが、何となくしか理解できませんでした」
頭のいいルーグさんが理解出来ないとは。チェスってそんなに難しいものだっけ?
まあ、プロがいたくらいだから奥が深いんでしょうけど、動かし方くらいわかるものじゃないの?
「今度泊まりになるお方が好きだそうで、対戦出来る者を用意する必要があるんですよ」
「わたしにやれと?」
「いえ、遊び方を覚えて教えてくれれば助かります」
まあ、それならいっか。どんなものか興味あるしね。
「わかりました。覚えてみます」
さっそく説明書を読み始めた。
時が過ぎるのは早いものよね。
今年は雪が少ないので、ただただ寒いだけ。お風呂に入るのも大変だわ。
「室内に作るんだたわ」
お風呂は外だから服を脱ぐのも辛い。スウェーデントーチをいくつか置いて入らないと心臓麻痺を起こしそうよ。
「それなのに民宿は大繁盛よね」
この寒い中、馬車に揺られてやって来る。なんか、お金持ちの間では結構有名になっているみたいよ。
「お嬢ちゃん、早いな」
職人さんたちのところにパンを届けに行くと、職人さんたちが食堂に集まっていた。
「皆さんこそどうしたんです? こんなに早く?」
今はまだ六時前くらい。職人さんたちも朝は早いけど、朝食は七時くらいからだ。まだそれぞれの部屋にいる頃だ。
「今度、お貴族様が来るそうでな、その準備をしなくちゃならんのだよ」
「貴族が? 庶民向けのところに?」
お金持ちが来るようなところとして造ったけど、貴族を受け入れるようには造ってない。よく許したわね? いや、貴族から言われて断れないでしょうが、その貴族もよく来ようと思ったこと。
「何でもコンミンド伯爵様の紹介らしい」
伯爵様の?
「じゃあ、同じ伯爵様なんですか?」
身分社会で紹介するくらいなんだから同等かそれ以上の人ってことだ。
「爵位は息子に譲ったお方らしいな。隠居したから旅がしたいんじゃないか? 貴族は隠居すると暇になるって聞いたことがあるからな」
まあ、隠居ってことは引退したんでしょうから仕事はなくなるもの。元気なら暇で仕方がないでしょうよ。
「ってことは、貸し切りになっちゃうのかな?」
まさか他のお客さんと一緒に、ってことはできないでしょうよ。
「そうだな。ご高齢な方でもあるから防寒対策を今からやっておくのさ」
ほーん。確かにご高齢な方ならこの寒さはキツいわね。
「散歩道も作ってはどうです? 暖かい日には外に出るかもしれませんしね」
寒い日は続いているけど、たまに暖かい日もあるものだ。そのときには外に出るんじゃないかしら? ずっと室内にいるのもキツいものでしょうからね。
「そうか。レンラさんに話しておくよ」
「はい。では」
食堂を出て家に戻り、職人さんに聞いたことを皆に話した。
「ここも発展したものだ」
ここに住んでいたティナからしたら感慨深いものがあるでしょうよ。
「キャロル。今日、山を下りて冒険者ギルドに行ってくるね。また探し物依頼を受けてくるよ」
自分の食い扶持は自分で稼いでくると、たまに山を下りて探し物依頼を受けているのだ。
占い師じゃなく探し屋と認識されているのがおもしろいわよね。
「ボクも行く。肉がいっぱいだし」
今年の秋は鹿がたくさん出て、村にも被害が出るほどだったみたい。今年はゴブリンやら鹿やら散々な年みたいだわ。
鹿肉で作ったソーセージや塩漬け肉が結構あるのよね。さすがに毎日は飽きたわ。たまには魚が食べたいわ~。
「魚がいる川ってないものかしらね?」
いるのはいるんだけど、泥臭い魚ばかり。清流とかある山に行かないとダメなのかしらね?
朝食を終えたらティナとマリカルは家を出て、わたしは山の中に作った訓練場で木刀を振った。
ただ振るだけの訓練でも体力は付く、と思ってやっているけど、二十分もしたら飽きてくるもの。最後はいつも松ぼっくりを打って遊んでいるわ。ナイスショット!
「わたし、ゴルフの才能あったりして?」
木刀の先で松ぼっくりを当てられるんだから凄いことじゃない? これを活かしたら武器って作れないかしら?
何てこと考えながらゴルフクラブを作っていると、食堂のおばちゃんがやって来た。
「ここにいたかい。レンラさんが捜してたよ」
「レンラさんが? 何かあったのかしら?」
用があれば昼か夜にでも声をかけてきていた。誰かを使って捜すなんて珍しいことだ。
とりあえず家に戻ると、ルーグさんも一緒にいた。
「どうしました?」
「ちょっと見てもらいものがありまして」
ルーグさんが抱えていた箱を近くの作業台に置き、中から二つ折りにされた板を出した。
……え? チェス……?
チェスはやったことはないけど、盤はアニメで観たことはある。将棋ではないことくらいわかる知識はあります。
「これは?」
チェスでない可能性もあるので顔には出さず尋ねた。
「ジェドという遊戯盤です。この駒を使います」
うん。これ、チェスだわ。この世界ではジェドって呼ばれてんの?
「こういうのがあるんですね。お城では見ませんでした」
この作りからして職人が丹精籠めて作ったものだ。かなりの値段になるでしょう。なら、庶民にはなかなか買えるものじゃない。貴族の遊戯でしょうよ。
「海の向こうの国から流れて来たものです。貴族の間でも流行ってきたそうです」
バッテリーを作った人ではない? この世界、結構転生者がいたりする?
「で、なぜわたしに?」
「ジェドの遊び方を覚えて欲しいのです」
ルールが書かれた紙を渡された。結構細かいのね。
「わたしも説明を読んでみたのですが、何となくしか理解できませんでした」
頭のいいルーグさんが理解出来ないとは。チェスってそんなに難しいものだっけ?
まあ、プロがいたくらいだから奥が深いんでしょうけど、動かし方くらいわかるものじゃないの?
「今度泊まりになるお方が好きだそうで、対戦出来る者を用意する必要があるんですよ」
「わたしにやれと?」
「いえ、遊び方を覚えて教えてくれれば助かります」
まあ、それならいっか。どんなものか興味あるしね。
「わかりました。覚えてみます」
さっそく説明書を読み始めた。