旅芸人一座はラッカルと言うそうだ。
コンミンド伯爵領にも何度も来て、バイバナル商会主催のお祭りに参加したこともあるそうよ。
お祭りは各商会が受け持ち、去年はお嬢様のおじいちゃんが死んだことでやらなかったみたい。
今回、たまたま寄ったラッカル一座が挨拶しに行ったら壊れた楽器の話が出て、わたしのところにやって来たそうだ。
「歌って、どんな歌を歌うんです?」
「陽気なものがほとんどだな」
団長さんも昔は楽器を鳴らしていた人で、今も楽士が足りないときは参加しているそうだ。
どんなもんかと聴かせてもらうと、確かに陽気な音楽だった。ただ、曲は単調だ。強弱はあるけど深みはない。そんな感じだ。音楽家ではなく芸の一つ、ってことなんでしょうね。
「歌姫的な感じの人はいないんですか?」
「昔はいたんだが、村の男と結ばれて今はいないな」
「新しい人を加入させたりしないので?」
「歌を歌うのが好きってヤツはなかなかいないものさ」
そうなんだ。気軽に歌うってことが出来ない時代なんだね。よく畑で歌う歌があるって聞くけど、この時代ではないし。
「歌うことが出来る人は欲しいですね。興行的には儲けられると思うので」
「儲けられるのか?」
「やり方次第じゃないですか? 人を魅了出来る歌なら人を集められますからね」
歌の文化は低いみたいだけど、商売敵は少ない状態なら盛り上げられると思うな。
「キャロルさんならどんなことをしますか?」
横で団長さんとの話を聞いていたルーグさんが入ってきた。
「そうですね。わたしならまず娯楽宿屋で芸を見せますかね。歌を聴かせたりお芝居を見せたりしますね。人気が出たら大きな町に芝居小屋を造って芸を披露する。認知されたらさらに大きな町に。そうやっ王都に大きな劇場を造る。人を集められる歌姫が生まれたら貴族もきっとやって来るでしょうよ」
まあ、前世の記憶からだからどこまで受け入れられるかはわかんないけど。
「そうしたら芸人一座も旅をすることもなくなり、町で暮らせると思いますよ。まあ、人気が出たら我が町に来てくれとかになっちゃうかもですけど」
「……それが出来たらどんなにいいか。旅芸人なんて身分が低いからな……」
「低いなら高めてやればいいだけですよ。芸は根付きやすいんですからね」
「……な、なんか、お嬢ちゃんは凄いな……」
「そうですか? 別に凄いことは言ってないですよ」
やるかやらないかの問題だけ。特段、凄いことなんて何一つ言ってないわ。
「キャロルさんは、自分の何が凄いかをわかってないのが問題です」
問題だと言われても何が問題なのかさっぱりだわ。本当に凄いことなんて何一つ言ってないんだからさ。
「楽器、マルビールは好きにしていいですよ。試しに作ったものですからね」
今出来る最高のギターは出来た(マリカルのものになっちゃってるけど)のであとのはいらないわ。
「そうだ。今日の夜にでもラッカル一座の芸を見せてくださいよ。民宿のお客さんも呼んで夕食観覧芸をやりましょう。わたしも歌うんで」
知っている歌はそんなにないけど、二、三曲ならそれっぽく歌える。マリカルにも歌ってみせたから曲は大丈夫でしょうよ。
「夕食観覧芸、ですか?」
「まあ、夕食を食べながら芸を観覧する、ってことですよ。そこで受け入れられるなら民宿の出し物の一つとしたらいいかもですね」
さすがにわたしが毎回やることは出来ないから歌姫を探さなくちゃならないけどね。
「レンラさんと相談しますね」
民宿に行って夕食観覧芸のことを説明し、どうするかを語った。
「わかりました。お客様にお知らせしましょう」
「外の用意はわたしたちがやりますね。卓と椅子は出しててください」
民宿のお客さんは今も来ており、四組ほど宿泊している。
宿泊費とか聞いてないけど、お金持ちを呼んでいるから儲けは出ているっぽいわ。
「マリカル。手伝って」
占い師業、どうした? ってくらいギターに夢中なマリカルさん。本当に転職しそうな勢いよね。
「何するの?」
レンラさんに説明したことをマリカルにも説明した。
「人前で引くの!?」
「ちょっとした余興よ。別に失敗しても構わないわ」
レンラさんにはちょっとした試みがあるから協力して欲しいと説明してもらうようにした。失敗込みの夕食観覧芸よ。
「キャロルって、ほんと度胸あるわよね」
「別に度胸なんていらないでしょう。失敗しても構わないものなんだからさ」
「そ、そうだけど、そう思えないのが普通なんだからね」
そんなものなの? わたしにはよくわからないわ。
職人さんたちにも手伝ってもらい、夕方までには席が用意できた。
「なかなかいい出来ですね」
「本当はもっと凝りたいんですけどね。今日はこのくらいにしておきます」
さすがに舞台は無理でも幕を張りたかったわ。ちょっと華やかさに欠けるわ。
「キャロルさんが凝るととんでもないものになるのでこれで充分ですよ」
まあ、確かに納得できるまでやったらいつになるかわかったもんじゃないわね。
「お客さんはどうです? 承諾してくれました?」
「はい。快く承諾してくれましたよ。初の試みに参加出来て光栄だそうです」
やはりお金持ちは品がいいわよね。
「じゃあ、ちょっと予行練習しますね。何か気になることがあったら言ってください」
「はい。わかりました」
ラッカル一座の人も集めて予行練習を開始した。
コンミンド伯爵領にも何度も来て、バイバナル商会主催のお祭りに参加したこともあるそうよ。
お祭りは各商会が受け持ち、去年はお嬢様のおじいちゃんが死んだことでやらなかったみたい。
今回、たまたま寄ったラッカル一座が挨拶しに行ったら壊れた楽器の話が出て、わたしのところにやって来たそうだ。
「歌って、どんな歌を歌うんです?」
「陽気なものがほとんどだな」
団長さんも昔は楽器を鳴らしていた人で、今も楽士が足りないときは参加しているそうだ。
どんなもんかと聴かせてもらうと、確かに陽気な音楽だった。ただ、曲は単調だ。強弱はあるけど深みはない。そんな感じだ。音楽家ではなく芸の一つ、ってことなんでしょうね。
「歌姫的な感じの人はいないんですか?」
「昔はいたんだが、村の男と結ばれて今はいないな」
「新しい人を加入させたりしないので?」
「歌を歌うのが好きってヤツはなかなかいないものさ」
そうなんだ。気軽に歌うってことが出来ない時代なんだね。よく畑で歌う歌があるって聞くけど、この時代ではないし。
「歌うことが出来る人は欲しいですね。興行的には儲けられると思うので」
「儲けられるのか?」
「やり方次第じゃないですか? 人を魅了出来る歌なら人を集められますからね」
歌の文化は低いみたいだけど、商売敵は少ない状態なら盛り上げられると思うな。
「キャロルさんならどんなことをしますか?」
横で団長さんとの話を聞いていたルーグさんが入ってきた。
「そうですね。わたしならまず娯楽宿屋で芸を見せますかね。歌を聴かせたりお芝居を見せたりしますね。人気が出たら大きな町に芝居小屋を造って芸を披露する。認知されたらさらに大きな町に。そうやっ王都に大きな劇場を造る。人を集められる歌姫が生まれたら貴族もきっとやって来るでしょうよ」
まあ、前世の記憶からだからどこまで受け入れられるかはわかんないけど。
「そうしたら芸人一座も旅をすることもなくなり、町で暮らせると思いますよ。まあ、人気が出たら我が町に来てくれとかになっちゃうかもですけど」
「……それが出来たらどんなにいいか。旅芸人なんて身分が低いからな……」
「低いなら高めてやればいいだけですよ。芸は根付きやすいんですからね」
「……な、なんか、お嬢ちゃんは凄いな……」
「そうですか? 別に凄いことは言ってないですよ」
やるかやらないかの問題だけ。特段、凄いことなんて何一つ言ってないわ。
「キャロルさんは、自分の何が凄いかをわかってないのが問題です」
問題だと言われても何が問題なのかさっぱりだわ。本当に凄いことなんて何一つ言ってないんだからさ。
「楽器、マルビールは好きにしていいですよ。試しに作ったものですからね」
今出来る最高のギターは出来た(マリカルのものになっちゃってるけど)のであとのはいらないわ。
「そうだ。今日の夜にでもラッカル一座の芸を見せてくださいよ。民宿のお客さんも呼んで夕食観覧芸をやりましょう。わたしも歌うんで」
知っている歌はそんなにないけど、二、三曲ならそれっぽく歌える。マリカルにも歌ってみせたから曲は大丈夫でしょうよ。
「夕食観覧芸、ですか?」
「まあ、夕食を食べながら芸を観覧する、ってことですよ。そこで受け入れられるなら民宿の出し物の一つとしたらいいかもですね」
さすがにわたしが毎回やることは出来ないから歌姫を探さなくちゃならないけどね。
「レンラさんと相談しますね」
民宿に行って夕食観覧芸のことを説明し、どうするかを語った。
「わかりました。お客様にお知らせしましょう」
「外の用意はわたしたちがやりますね。卓と椅子は出しててください」
民宿のお客さんは今も来ており、四組ほど宿泊している。
宿泊費とか聞いてないけど、お金持ちを呼んでいるから儲けは出ているっぽいわ。
「マリカル。手伝って」
占い師業、どうした? ってくらいギターに夢中なマリカルさん。本当に転職しそうな勢いよね。
「何するの?」
レンラさんに説明したことをマリカルにも説明した。
「人前で引くの!?」
「ちょっとした余興よ。別に失敗しても構わないわ」
レンラさんにはちょっとした試みがあるから協力して欲しいと説明してもらうようにした。失敗込みの夕食観覧芸よ。
「キャロルって、ほんと度胸あるわよね」
「別に度胸なんていらないでしょう。失敗しても構わないものなんだからさ」
「そ、そうだけど、そう思えないのが普通なんだからね」
そんなものなの? わたしにはよくわからないわ。
職人さんたちにも手伝ってもらい、夕方までには席が用意できた。
「なかなかいい出来ですね」
「本当はもっと凝りたいんですけどね。今日はこのくらいにしておきます」
さすがに舞台は無理でも幕を張りたかったわ。ちょっと華やかさに欠けるわ。
「キャロルさんが凝るととんでもないものになるのでこれで充分ですよ」
まあ、確かに納得できるまでやったらいつになるかわかったもんじゃないわね。
「お客さんはどうです? 承諾してくれました?」
「はい。快く承諾してくれましたよ。初の試みに参加出来て光栄だそうです」
やはりお金持ちは品がいいわよね。
「じゃあ、ちょっと予行練習しますね。何か気になることがあったら言ってください」
「はい。わかりました」
ラッカル一座の人も集めて予行練習を開始した。