そもそもなんで俺は西小のやつらにスイが星空に詳しいなんて話をしたんだったっけ。そうだ、思い出した。
「俺たちでカードゲーム作っただろ?あれも中1の初めに流行ったんだよ。覚えてるか?“軍神アンタレス”と“裁きのズベン・エス・カマリ”」



 小4の夏、ビーストカードのアニメが放送終了し、原作も連載終了した。ブームは下火になった。
「アニメ終わっちゃってビーストカードの人ってこれからどうするんだろうな」
「もう一生分稼いだからお休みするのかな」
「一生分って1億円くらい?」
「年収10億って噂だよ」
「まーじで!?宝くじの1等より高いじゃん!俺のじいちゃんも宝くじじゃなくてカードで一発当ててくれりゃよかったのに」
「えー!こーちゃんのおじいさん宝くじ当てたことあるの?」
「昔、1等当てたんだって」
「宝くじの1等が当たる確率って隕石が当たって死ぬ確率よりも低いんだよ?すごすぎない?こーちゃんも豪運だよね。そういうのって遺伝するのかなぁ」
 その時食べていた棒アイスはちょうど当たりだった。給食のデザートが余った日の争奪ジャンケンの勝率は体感7割。ビーストカードはディスティニードローで奇跡の逆転勝ちを何度も決めていた。
 高校生になって友達と麻雀をしていたらこの間天和を和了した。隕石に当たって死ぬ確率よりも低いレアな役満らしい。そもそも、高校だって入試がマークシートだったから受かったようなものだ。
「しないだろ。父さん運悪いから、一時期会社潰れかけてたし。で、去年まで貧乏生活だったから兄ちゃん今年になるまでケータイ買ってもらえなかったって」
「不公平だから俺もケータイ解禁は最短で中2。不便だから、ここは一発俺が当てて自分でケータイ買うのありじゃね?」
「宝くじって狙って当たるの?」
「いや、俺はカードゲームで一発あてる!スイも一緒にやろうぜ。もしカードが大ヒットしたら俺たち億万長者だからもう勉強なんてしなくてもよくなるぞ!」
「すごい、こーちゃん天才!」
 適当な思い付きにスイは乗った。一緒にやると言いながら、キャラクターデザインもルールもほとんどスイが考えた。小学4年生の考えたゲームなのでジャンケン要素のあるビーストカードの亜種みたいなガバガバルールだったけれど、クラスでは流行った。
 スイの絵は当然のように1年生の頃に比べるとかなりうまくなっていた。主人公枠のモンスターは俺がモデルらしい。魚みたいなヒレを身にまとった赤い精霊の名前は“軍神アンタレス”だった。とにかくカッコイイ精霊を描いてくれといったら迷わず俺をモチーフにするところが本当に可愛いやつだ。
 “裁きのズベン・エス・カマリ”というスイをモデルにしたモンスターも作った。緑色の精霊で軍神アンタレスの懐刀という設定だ。
 世界観が出来上がり、星座やら星やらの名前をもとにしたカードを作った。モンスターは海の生き物っぽい見た目に統一した。名前は「スターワールド」、間違いなく名作だ。
「俺は北海道に従兄がいるだろ?従兄に口コミで教える。で、従兄が学校で流行らせて、たとえばその中の誰かの親戚が大阪に住んでたら大阪にも広がるだろ?これと同じことをクラスのやつらみんなでやればあっという間に日本中で大ブームだ!」
 俺は“スターワールド宣伝部長”を名乗りこんな計画を打ち出したが、結局クラス内のブームで終わった。ただ、それで十分楽しかった。
 紙に書いた絵をコピーして切っただけのカードで作ったデッキをクラスの男子のほとんどが持ち歩いていた。スイの転校したあと、6年生の11月にももう1度ブームがあった。
 小学4年生が考えたゲームは単純だ。単純だったからこそ、わかりやすく敷居が低かった。カードゲームに興味はあるけどビーストカードのルールが難しくて理解できなかった層にも受けた。中学1年の1学期のほんの短い期間だったけれど、西小出身のスイを知らないやつらと「スターワールド」を確かに遊んでいた。俺の中学時代にもスイの面影は存在していた。



「星空をもとにしたカードゲーム自分で作った超絶天才がいるんだぜって、言ったら西小のやつらすげえ驚いてたよ」
 真っ暗な部屋の中、スイに教えてやった。
「デッキケースに入れてるの、片っぽはスターワールドのカードだよ。こーちゃんと遊んだカード、今も宝物なんだ」
 眠る前にスイは言った。