自分でもわかるくらい、寝る時間が急増した。


 多分、透真くんと夢を見た日を境に何かが変わった。


 《望んだ夢を見ると寿命が縮む》


 この噂は本当だったんだ、と感心しながら、もう一度見たいな、とも思った。


 匂いも色も温もりも。


 まるで現実のような夢の中毒性は予想以上だった。


 最近は鉛と化してベッドから起きられなくなった。


 おそらく持って数日だと思う。


 頑張った。もう頑張らなくていい。


 そう言われているような気がした。 


 あと数日、ベッドに張り付いて生きるくらいなら、もう一度夢を見よう。


 最期くらい、自分に甘くいよう。


 自分の人生の主人公でいよう。


 そう思うと同時に身体中から力が抜けていき、あっという間に温もりに包まれた。


 「蒼来」


 果てのない一本道で、名前を呼ばれて振り返る。


 そこには笑顔を浮かべる母の姿があった。


 「頑張ったね」


 そう言って頭を撫でる母に、もうそんなに幼くないよ、なんて言ってみたり。


 母のその一言が一番言われたかった言葉かもしれない。


 風のように走り抜けた人生を、現実に耐えた日々を、その言葉が認めてくれたような気がした。


 「じゃあ、ちゃんと言っておいで」


 その言葉と共に、母は軽々と空へ飛んで行った。


 鳥になったみたいに、なんだか私の知っている母の何倍も生き生きしていた。


 そんな母を見送って、私はまた歩き出した。


 果てのない道を、ただひとりゆっくりと。


 電子音が鳴り響く部屋で父が私を呼んでいた。


 今にも消えてしまいそうなほどに掠れた星絆の声も聞こえた。
 

 きっと、これが正真正銘の最期なのだと思う。


 浮遊感を覚えたまま、小さく、ありがとう、と呟く。


 「おーい」


 透真くんに呼ばれて、おーい、と返す。


 「何やっているんだよ」


 「透真くんが早すぎるんだよ」


 そう言ってまた叫ぶ。


 無邪気な顔で透真くんは笑い、それにつられて私も笑った。


 ごめんね、早いけどもう行かなくちゃいけないんだ。


 私の人生を明るく照らしてくれてありがとう。


 心の底から、父や星絆の幸せを願って私はまた歩き出した。



 さようなら、また逢う日まで。