「ただいま」


 「おかえり」


 あの後、もう一度水族館を一周して帰路についた。


 欲を言えばきりがないけど、透真くんも私も体調を崩すことなく今日を終えられたことが何よりの幸せだと思う。


 「今日は楽しかったか?」


 それに、うん、と小さく頷いた。


 夕飯づくりにひと段落が付いたのか、父がエプロンを外しながら歩いてくる。


 エプロンをソファの背もたれにかけると、ソファの下に座って私をじっと見た。


 中年男性とはいえ、上目遣いにはまだ可愛らしさがあった。


 「次の火曜日、空けておいて」


 「わかった。もしかして嫉妬してる?」


 「高校生相手に嫉妬するほど心は狭くないよ」


 ふーん、と言いながら父を見ると、分かりやすく頬を赤く染めてそっぽを向いた。


 父が、子離れできなくなっているみたいで、そんな一面が愛おしくて仕方がなかった。




 《今日はありがとう。楽しかった》


 父が再び料理に戻ると、透真くんにお礼のメールを送った。


 返事がすぐに来ないとわかっていても、いつまでもトーク画面を開いて待っていた。


 既読、という文字が待ち遠しくて、思わずその画面に吸い込まれてしまいそうになりながら。


 《俺も楽しかったよ。ありがとう。また、どこかに出かけような》


 《うん。次に行きたい場所、考えとくね》


 「夕飯までまだ時間もあるし部屋でゆっくりしてきたら?」 


 それを聞いた私は、分かった、とだけ言い残して階段を駆け上がり、ベッドにダイブした。


 疲労を感じているにも関わらず、まだ身体が軽い。


 今なら空も飛べそう、なんてことを真剣に考えられるくらいに。


 次のお出かけはどこに行こう。


 画面を閉じてベッドに仰向けになって考える。


 水族館に行ったことだし次は動物園にでも行こうか。