早紀さんと別れた後、父から、先に車に戻っている、との連絡があったので私も慌てて車に向かい、そのまま帰宅した。


 車内は無言でただラジオが2人の間を流れているだけだったが、無音よりはまだ気楽で良かった。


 途中で英語だらけの内容に変わり、内容は分からなかったが、暇を持て余した結果私はそれに耳を傾けていた。


 「今日会っていた人は誰だったんだ?」


 帰宅して、父が事前に作っておいた夕食を温めているときに、父が聞いてきた。


 おそらく、父は、私が道を踏み外すのではないか、と心配したのだろう。


 ただ、今のところその選択をする可能性はない。


 それに、私には残り僅かの命を危険にさらす度胸は無いから、一生、その心配の必要はないと思う。


 流石にそれは父に言えなかったけど。


 「同じ病気の子のお姉さんだったよ」


 「そうか」


 父は私の言葉を聞いて安心したのか露骨に安心しきった様子で、胸を撫で下ろした。


 「どうしたの?何かあった?」


 「いや、蒼来が幸せならそれでいいんだ」


 「ねぇ、やっぱり何か変だよ」


 「なんでもないよ。ほら、冷める前に夕飯食べるぞ」


 「はーい」


 私は父の顔色窺いながらそう返すと、静かに席についた。


 ランチョンマットの上には生前の母が愛していたという現代的なデザインの平たい和食器。


 その上踊る黄金色に揚がったコロッケとみずみずしさを醸し出している葉野菜の数々。


 「なぁ、今度ピクニックにでも行かないか?」


 「急にどうしたの?」


 「いや、たまには気晴らしにどうかなって思って」
 

 「うん、行きたい」


 「本当か?」


 うん、と満面の笑みで頷いて答えた。


 父は相当嬉しかったようで、それから何度も繰り返した。


 傍から見ればおかしな光景だが、そんな父が好きだ。  


 この笑顔は私が守らなければならない。


 その笑顔を見る度にそう思った。


 結局その日は、私に医者と話したことは教えてくれなかった。


 サプライズとは思えなかったために特に変化がなかったか悪化したかの2択に絞られていた。


 とはいえ、それを知ったところで喜べる2択ではなかったから聞こうとも思わなかった。


 でも、私には何となく後者のような気がした。


 残された時間で必死に思い出を創ろうとしている、そんな焦りを父親からは感じた。