その翌日もまたその翌日も、学校が終わると誰よりも先に学校を飛び出し、病院行きのバスに乗り込んだ。
病院でもらった薬を毎日服用しているせいか、容態は安定しているほうだ。
とはいえ、病は日を増すごとに影で悪化していて、私のすべての終わりまでのタイムリミットが刻々と迫ってきていることに変わりはない。
だけど、これで良かった。
残りの時間を無駄に過ごすよりもずっと。
「お姉さんって夢見病なの?」
いつもと同じように透真くんの病室に向かっていると背後から50代ほどの女性に声を掛けられる。
「えっ?」
「あの病室をよく出入りしているから」
「違いますよ」
女性と目を合わせたまま、咄嗟に嘘をつく。
「そっか、なら良かったわ」
何が良かったのか、と言いたくなる。
しかし、これは稀に起こる出来事だから慣れなければいけない。
聞かれるたびに自分が夢見病であることを突きつけられて胸が締め付けられるのだけど。
まだ研究が進んでいないために出回っている情報が少ないことがこの事態を呼んでいるともいえる。
きっとあの女性は自分にもうつるかもしれないと心配したのだろう。
それか、私にうつることを。
まず、後者ではないだろうが。
そもそもうつるという情報自体がデマであるために恐れる必要はない。
だが、直接聞いてくる人もまだいるのか、と思い、今後の行動には気を付けておこうと決めた。
私が言う前に周囲に夢見病だと知られてしまうと厄介だ。
女性がいる前で今から目的地に向かえば厄介なことになると思い、一度別の場所に向かう素振りをした後に透真くんの病室に向かった。
顔を出すと、今日も来てくれてありがとう、と言う彼の声と恒例の笑顔が私を迎えてくれた。
「昨日のテレビが凄く面白かったんだよね、これなんだけどさ」
私はそう言ってアプリの見逃し配信機能で昨日見たバラエティー番組を見せた。
それを観ながら透真くんは笑うものの、どこか作り笑顔を思わせるようなところがあった。
そういえば数日前から透真くんの笑顔は偽りの笑顔のようだった。
数日前とは、透真くんがお姉さんに強く言ったというあの日あたり。
偽りの笑顔といっても確証はないが何となくそんな気がする。
あくまでもなんとなく。
「これ面白いな」
「でしょ?私も昨日初めて観たんだけどハマっちゃって」
まだ序盤にも関わらず透真くんの笑いのツボにはハマったらしく釘付けになって観ていた。
昨日ふとこの番組について調べてみたところどうやらこの番組は内容が回を跨ぐことがないらしい。
これは私にとっては好都合だった。
大抵のドラマやバラエティー番組は繋がりのあるものが多いから、いつ死を迎えるか分からない私からすればどうも見る気にはなれない。
正しくは楽しく観られないとでも言うところだろうか。
繋がりものは打ち切りや最終回を迎えるまで続く。
確実にそれよりも私の人生の方が早く終わると分かっているからなのか、見ているとつらくなってしまう。
きっとこの番組に夢中になったのには番組の面白さと同じくらいそれは関係している。
「また来週も観たいな」
視聴し終えたところで透真くんはそう言った。
「観られるよ」
無責任だとは思いながらも微笑んで言った。
どう思われようとまだ生きることに対しては消極的になってほしくは無かった。
それを私が言える立場ではないが、透真くんが前を向いてくれるのなら私はどう思われても構わなかった。
それからは特にこれといったことをすることなく雑談をし、しばらくすると透真くんに手を振って背を向けた。
最後に、また来週この番組を一緒に見よう、と私から約束をして。