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 検査結果は想像していた通り、悪化の一途を辿っていた。


 治療法が無いために良くなるわけがないのだけど、それでも心のどこかで奇跡を願っている自分がいた。


 涙も出なかった。


 ただ事実に頷くだけだった。


 隣で結果を聞いていたお父さんは震えた声で医師の話を飲み込む。


 現状のこと、今後の方針。


 必死に頭に叩き込むお父さんには、感情を押し殺す時間も余裕もなかった。



 「今を大切に生きてね」


 去り際、担当医の平島がそんなことを言った。


 本当に時間がないのだろう。


 なんだか、現実味がなかった。


 「今度、どこかに出かけるか?」


 「いいね、どこ行こっか」


 「最近は何が流行っているんだ?」


 「ギャルピース」


 「なんだそれ、今のピースはこれじゃないのか?」


 そう言いながら父がしたのはダブルピースだった。

 
 「違うよ、それいつ流行ってたの?」
 

 「僕が若いころ」 


 「ふーん」


 「というかそれ場所じゃないだろ?」


 「うん。だって私に聞かれても人気スポットは分からないし」


 「じゃあ星絆ちゃんに聞くのはどうだ?星絆ちゃんなら知ってるだろ?」


 「うん、また聞いておくね」


 どうやら平島先生の発言に焦り始めたのはお父さんも同様のようで、思い出作りに走っていた。


 それが嬉しいような寂しいような、複雑な感情を抱きながら、また笑顔を見せた。