放課後、私はいつものようにお見舞いへ向かった。
勿論、その日も会えないことを覚悟して、院内に足を踏み入れた。
エレベーターに向かっていると、売店の近くで買い物に向かっていた透真くんの母親に会い、呼び止められた。笑みを浮かべ、手を挙げている。
「蒼来ちゃん、いつもお見舞いに来てくれてありがとう」
「いえ」
透真くんには会えないけど、と心の中で言ってみた。
「本当に有難いわ。今日、透真の意識が戻って一般病棟に移れたの。五〇三号室だからもしよかったら行ってあげてほしいな」
透真くんに会えることが嬉しくて、すぐに礼を言ってその場を立ち去った。
ずっと待っていた日だ。
はやる気を抑えるのに必死だった。
透真くんの病室は一人部屋で、ノックをして病室に入ると無理して笑って私を見た。
「来てくれたんだ」
透真くんはそう言い、座りなよ、と加えた。
私はその言葉に甘えてパイプ椅子に座ると、ホッとして思わず目が潤んだ。
「無事でよかった」
「蒼来も無事でよかった」
「私はまだ大丈夫だよ」
「俺もまだ大丈夫」
大丈夫ではないのだろうけど、なんでもいい。
「花火には絶対間に合わせるから」
透真くんはいつものように得意げに笑って見せるが、今回ばかりは無理をしてほしくなかった。
それがたとえ最後の機会だったとしても。
「無理しなくていいよ」
「いいだろ、もう最後になるかもしれないし」
透真くんは淡々とそう言った。
もしかすると透真くんも余命宣告を受けたのではないかと思った。
とはいえ、その話は私には分からなかったし、透真くんの口から聞くまでは私が介入すべきではなかった。
「分かった、楽しみにしているね」
それから数分雑談をしたところで私は病室を出た。
意識が回復したばかりの透真くんに気を遣わせたくはなかった。