「退院したらどこに行きたい?」
それからすぐに透真くんは言った。
思い出作りには何がいいだろう、私は真剣に考えた。
だが、考えれば考えるほど、私は透真くんとは関わってはいけない人間だと思わされた。
きっと、いや特別なことが無いかぎり、私は透真くんよりも先にこの世界を去ることになる。
そんな私が透真くんに執着するような人間にはなりたくないし、私が居なくなった世界で透真くんが苦しむ姿は見たくない。
そもそも苦しむとは限らないけど。
でも、それを未然に防ぐためにも親密な関係になることは避けるべきだと思わずにはいられなかった。
「あのさ、透真くんのためにも私とは距離を置いた方がいいと思うの」
少しでも透真くんを傷つけないように、言葉を選びながらそう言った。
「どうして?」
透真くんが楽しそうに行き先を考えている時に言ったものだから、私の言葉を理解するのに時間がかかったらしく、しばらく口を開けたまま一点を見つめていた。
「私、夢見病なんだ」
悩み抜いた末、私が夢見病であることを透真くんには伝えることにした。
そうでもしないと、透真くんは距離を置いてくれないような気がした。
それに、噂を流すような人には思えなかったし言いやすかった。
「私のせいで透真くんがクラスで変な噂を流されちゃうかもしれないでしょ」
「そんなことどうだっていいよ」
これまでにないほど強い口調だった。
だからといって私の考えが簡単に変わるわけではない。
透真くんのことを思うからこそ、引き下がろうにも引き下がれなかった。
「よくないよ」
「じゃあもし俺が夢見病だとしたら?」
突然透真くんはそう言った。
「それ、からかってる?」
その発言に対して理解が追い付いていなかった私は考える前に咄嗟に言ってしまった。
「いや……」
透真くんは言葉を濁して俯いた。
私には透真くんが夢見病であるとはどうも思えなかった。
でも、それと同じくらいからかっているとも思えなかった。
だが、一瞬頭にきたのは事実だった。
私だって透真くんと距離を置くのは本望ではない。
わざわざ透真くんのために自分を犠牲にして離れてほしいと言っているのだから、少しくらい分かってほしかった。
そして、離れて欲しかった。
未来のない私といる時間が無駄なのは言うまでもないことだし、透真くんだってわかっているだろうから。