ついに長かった病院生活が一旦明日で終わる。
 

父は何やら忙しそうに病室を出入りした後、一度家に帰った。


表情はどこか引きつっていて、また何か言われたのだろうと察した。

 
父はいつもそんな調子だから慣れたほうではあるけど、やはり不安要素のひとつではあった。
 

そんな父と入れ違いで透真くんがお見舞いに来てくれた。
 

透真くんには退院することを事前に伝えておらず、今から伝えようと思っている。

 
本当は驚かせたかった。 

 
透真くんなら自分のことのように喜んでくれる気がしていたから。
 

結局、私がそういう気分から少し離れてしまったのだけど。
 


「あのね、透真くんに言っていないことがあるんだ。今言ってもいいかな?」

 
「無理しなくていいからな」

 
私の声がいつもより低かったのか顔色が悪かったのか、透真くんは真っ先にそう言った。


さすがの私もこれには申し訳なく思い、無理矢理口角を上げてみる。
 

「うん、じゃあ聞いていてね」

 
透真くんはそれから小さく頷き私の目をじっと見た。

 
その目は全てを受け入れるとでも言うような覚悟の目をしていた。


「私、明日退院が決まったの」

 
「本当か?」

 
透真くんは目の前の宝物に飛びつくような勢いでそう言い、私が頷くや否や大粒の涙を零し始めた。

 
良かった、という彼の声と涙声だけが部屋に響いていた。
 

私も透真くんが自分のことのように感情を表してくれたことが嬉しくて思わず涙が溢れ出す。
 

病状がどうだったとしても、これは喜んでいいことだと思うことが出来た。