夢、か。

 
あれから何度も考えているけれど、夢を持ったところで叶わないのにと考えてしまう自分が情けない。


透真くんは有名になれるかもしれない。

確実に私より未来があるし、世渡り上手な気もするし。

けど、未来がなくて人付き合いも苦手な私なんかが持っていい夢はきっとない。

 
まだ時間は残されているけれど、残り時間も私はまともに生きることすらできないみたいだ。



 
「大丈夫、ですか?」
 
カーテン越しに灯さんに声をかける。
 
最近、灯さんがベッドの上で声を殺して泣くのを耳にすることがあった。
 
きっと何かがあったのだろうとは勘付いていたけれど、盗み聞きしていると思われるのが嫌で気づかぬふりをしていた。

それでも、今日は力になりたい気分だったから、勇気を振り絞って声を掛けることにした。
 
「すみません……」
 
声を震わせた返答に、なんで返せばいいのかがわからなかった。
 
「何か私が力になれることはありませんか?」
 
カーテン越しに、手を差し伸べる。
 
言ってすぐ、こんな発言をしなければよかったと思った。
 
同じ病を患っているだけなのに、烏滸がましい。

それでも、灯さんは私を避けず、呼吸を整えてから
 
「もしできたら話を聞いてもらってもいいかな?」

と言った。
 
「はい、私でよければぜひ」
 
頼られることに嫌な気はしなかった。

むしろ、ひとりの人間として見てくれている気がして頬が緩んだ。
 
「私ね、ある程度の覚悟はできてるの。だけど、パパと日葵があることないこと言われるんじゃないかって不安だけがずっと消えなくて」
 
その不安は私もかつて抱いたことがあるものだった。
 
それだけでなく、家族を第一に考える灯さんの思いに胸を打たれた。

このことをお母さんも思っていたんだろうなと思うと涙腺が緩んできた。
 
「根拠のない悪い噂で苦しむのは私だけでいい」
 
灯さんが吐き捨てるように言った最後の一言は、私の胸に棘となって突き刺さった。
 
どんな形でもいい。
 
灯さんにひとりで抱えずに済むなにかがあれば。
 
それがあれば、灯さんも、私ももう少し楽に生きられる気がした。