高斗は首を傾げる。それには答えず、真紀はドアに向かって歩き出した。
「行くよ。見たかったんだもん、進化系熊鷹。死んじゃってるけどね」
 
「高斗、真紀ちゃん」
 希望は家の中から出てきた二人に声を掛けた。
「真紀さん、行けますか?」
「はい! 楽しみだな-」
 職員が尋ねると、真紀は年相応の幼さを見せた。
 希望はほっとした。自分のように熊鷹に対するトラウマができてしまってはかわいそうだと思ったから。
 真紀が職員と楽しそうに出掛けていく。
 希望はわくわくした気持ちで高斗を見上げた。
「あのね、高……」
 言葉は途中で途切れた。
 高斗の唇が己の唇を塞いでいたから。
「ん……」
 希望はきゅっと目を瞑る。舌を激しく絡められて息ができない。
 しばらくすると唇は離れた。
「たかと……?」
 息が上がった声で尋ねる。高斗はふてくされたような様子を見せた。
「なんでもない」
「そ、そう……」
 会話がそこで途切れたところで、希望は思い出した。
「あのね、高斗。この近くに浅間神社ってあるの知ってる?」
 先程パンフレットで見たところだ。高斗は頷いた。
「これから遊びに行かない? 今日お仕事ないって言ってたでしょ」
「別にいいけど。あんなとこ、特に何もないぞ?」
 高斗は不思議がった。希望は「いいの!」と高斗の腕に腕を巻き付けた。
「小さい頃遊びに行ったことがあるの。さっき職員さんの話聞いてたら、懐かしくなっちゃって」
 そう言うと、高斗も興味を持ったようだった。
「希望の思い出の場所か」
 すっと再び唇が重ねられた。
「それは俺も行きたいな」

   ***

「……久しぶりだな」
 突然の来訪者に、瞳は目を丸くした。
 訪れてきたのは、以前ここで共に暮らしていた男。
「ここは変わりないな」
 男は懐かしそうに家を眺めた。
「十年ぶりか? 元気そうで何よりだな。和哉」
 和哉は今から十年ほど前に成人して家を出た。確か今は浅間研究都市で研究員として働いていたはずだ。
「まあ、中に入れ。茶でも淹れるぞ」
 家の中に招き入れようと手招きする。
「真紀は?」
 和哉のその言葉に、瞳は振り返った。
「なんでお前が真紀を知っているんだ?」
 すると和哉は意外そうに目を眇めた。
「真紀から何も聞いてないのか?」
 瞳は頷く。
「真紀の遠縁の者だ。今日は真紀を引き取りに来た」