■■■



 五月女奏くんへ

 この手紙を君が読む時、私はこの世界にいないでしょう。

 今、君の寝顔をすぐ横に見ながら、これを書いています。きっとこれが、私の最後のゴーストになります。



 君のことを傷つけた生徒や先生が誰なのかは、実は私なりにこっそりと調べていました。

 今夜、もうそんなことができないように、ちょっと怖い目に遭ってもらおうと思います。それでもあまり効果がなかったら、ごめんね。



 私にはもう、思い残すことはありません。……君の、その後の体調だけは心配ですが(大丈夫ですか?)。

 私はずっと、心残りがなくなれば、心置きなく死ねるものだと思っていました。

 それが私の、この数ヶ月間の一番の願いでした。

 なのに、今は逆です。

 君が生きて欲しいと言ってくれた私の命を、途中で自分からはやめずに、最後まで生きたいと思っています。ちょっと不思議です。



 私は、君や、妹さんや、お母さんを、少しは助けられたかと思います。そのことを、五月女くんは感謝してくれているかもしれない。



 でも私の方は、君にこそ感謝しています。



 ゴーストを、ただの緩やかな自殺のための能力だとしか思っていなかった。そんな私だから、ゴーストは人を癒すための能力だと疑いなく信じて他人の怪我を治していく君に、どれだけ驚き、救われたことか分かりません。

 五月女くんを見ているうちに、それまでずいぶんいびつになってしまっていたはずの私の心は、少しずつ元の形を取り戻していきました。

 人の喜びを喜べる心の形に。

 君がずっと、私を助けてくれていたんです。

 もう一度伝えます。私が君にしたことは、君がしてくれたことの分が還ってきたんだと思ってください。



 私たちは、自分のことさえ全ては分かっていないように、ゴーストのことも分かっていません。

 でも、少なくともこれから、お互いのゴーストに会わないうちは、お互い死にたいと思わずに、元気に暮らしているってことなんだろうってことは信じられます。

 もしそんなことがあったら、私は間違いなく君に会いに行くし、君は私のところに来てくれるだろうから。

 そうならないことが、君の言った通り、とても寂しいけど、でも嬉しいよ。



 本当にありがとう。

 君に会えてよかった。

 私や、私以外の数え切れない人たちを、人知れず助けてくれた、君の助けになれて良かった。



 さっきはあんな風に書いたけど、君とまた会う日を、つい願わずにはいられないよ。

 きっとまた、いつか、どこかで。