と彼女は答えた。まさか、ジュリエットが・・・・・・。近頃ジュリエットとまるで会話をするような客が何人かいる。それと何か関係があるのかもしれないが、今の私には見当もつかないことだった。
それから少し、彼女の身の上話やもう逝ったという旦那との惚気を聞いていた。珈琲も冷めたころ、俯いていた彼女はすっかり顔を上げていて、
「なんだか喋りたいこと全部言ったらすっきりしたわ。ありがとうね、店長さん。それと、ねこちゃんも」
ジュリエットは彼女の膝からその巨体からは想像できない身のこなしですたと降りると、彼女を外までエスコートするように出口へと歩いた。が、先に会計がある。何となく、自分の祖母に似ているような気がした。どこかで聞いたことのある惚気話、気難しい猫に好かれる体質。とはいえ、ずっと昔になくなっているはずだ。それ以上は考えたくなくて、無理やり別のことを頭に浮かべた。
外はすっかり暗くなっていた。霧は晴れかかっていて、空にはぼんやりと月の光が拡散している。

外に出たわたしは、一度振り返って、猫が見えないかと伺った。どうやらすでに裏に逝ってしまったようで、その姿を見つけることはできなかった。さて、あの子は気付いていたのだろうか。
「うふふ、次はあの人と来ましょうかね。珈琲、とってもおいしかったわよ」
とつぶやくと、風が吹き、霧とともに消えていった。