【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


これまでの経緯を話し終えたのと同時に、細く長い息を吐き終えたような気がした。

もっとさらっとなんでもないことのようなトーンで話せたらよかったのに、糸を解きながら語った過去は深刻な色を帯びてしまった。


空気を仕切り直すように、柊依に見せるための笑顔を作る。

そして俯けていた顔を上げようとした時。


「それでも紫苑は前に進むんだな」


私の頭の上に柔らかい声と、優しい手が落ちてきた。


顔を上げれば、柊依の私を憂う眼差しが私へと降り注がれていた。

私を思って、寄り添い、心配してくれている。

そのことが瞳から伝わってくる。


「普通は未来を変えてまで、縁を切られた相手に会いたくなんてないだろ。会う必要もないんだし。もう一度傷つくかもしれないって怖くないのか?」


柊依の言葉は、まさに私の心情を言い得ていた。


私は頷き、「本当はすごく怖いよ」と囁く。


いつからだろう。

この人の前で本音を晒すのが怖くなくなったのは。

かっこつけることも誤魔化すこともなく本音を曝け出せるのは、柊依がどんな私も受け止めてくれるという、そんな信頼が心の中にあるから。


「ずっと躊躇ってた。でもあの日の仁香に向き合わないと、前に進めない気がするの」


ずっと忘れようとしていた。

でもあの日の記憶はたしかに私のもので、なかったことにはできない。

あの日に背中を向けたままではきっと、私は夢奈と夏鈴にも向き合えないままな気がする。


「強いな、紫苑は」


私の頭の上に置かれていた手が、くしゃくしゃと頭を撫でてくる。


強くなれるのはきっと、柊依がいてくれるから。

そんな確証を、私は胸の中に溶かした。