するとお兄さんが「優し~!」と私の肩に手を回してきた。
急に近づいた距離に、動揺が走る。
きつい香水の香りがまとわりついてくる。
でもこういうスキンシップは、夜の世界では普通なのかもしれない。
夜の世界に溶け込むために、一歩退いたりせず威勢を張ってみる。
「そうですか?」
「お姉さん、お名前は?」
「菫、です」
咄嗟に口をついて出たのは、菫の名前だった。
お兄さんの一ミリも疑っていない様子に、ほっと安堵する。
「菫ちゃん、あったまれるところあるんだけど行かない? 今ならすぐ入れるよ。500円のワンコインで飲み放題!」
「えっ……」
お兄さんに誘われて、気持ちがぐらつく。
言われてみると、小腹が空いてきたかもしれない。
寒さが身に凍みてきていたから、暖かい場所があるというのもありがたい。
500円で飲み放題ならお得だしいいかも。

