【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


「紫苑」


澄んだ空気の中、柊依が私を呼んだ。

そして柊依が指さす方に視線を向けた私は、はっと息をのむ。


「綺麗……」


意図せず声がこぼれ落ちた。


太陽が連れてきたオレンジ色の光を背にして、西側の空に幻想的な景色が現れた。


薄紫が広がる下にピンク色の帯、そして水平線をなぞる紺色。

見たこともないほど綺麗なグラデーションだ。

私が知っている朝焼けではない。


「昨日の朝、ニュースで見たんだ。もしかしたらビーナスベルトが現れるかもしれないって。この季節にこの空が見られるのは奇跡だ」


柊依もその景色に圧倒されているように、どこか地に足がついていない声で呟く。


「ビーナスベルト……」


この大気現象を、ビーナスベルトと言うらしい。


「あの紺色の部分は地球の影。地球が空に映ってるんだ」


柊依が説明してくれるのを聞きながら、瞬きも息を吐くのさえも忘れて、私は目の前の景色に見入ってしまう。


目の前にあるはずの景色は、現実味がない。

まるで神様が丹精に丁寧に描き上げた絵画のようだ。


一瞬として同じ景色は存在しない。

刻々と変化を続け、今目の前にある景色は、もう二度と繰り返されない。

そう思うととても儚く、けれどだからこそいっそう美しく思えた。