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〝八方美人〟――その言葉は、呪文のように耳の奥にこびりついた。
今ではもう、それが夢奈と夏鈴のどっちが言ったかなんて覚えていないけれど、そんなのはどうでもよかった。
うまく振る舞い、いい子を演じていたはずがつもりでその実、私は八方美人でしかなかった。
その事実だけが、意識の果てまで追いかけてくる。
私が私である理由って、なに……?
あれからどうやって家まで帰ってきたか、記憶にない。
気づいたら、明かりもつけないまま自室のベッドの上に横になっていた。
そして夜になると、家族が寝静まった時を見計らい、私は家を忍び出た。
こんな精神状態で、寝られるわけがなかった。
それはふらふらと、なにかに誘われるかのように。
ほとんど無意識のような状態で。
私は私を捨て、菫になっていた。

