【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように





〝八方美人〟――その言葉は、呪文のように耳の奥にこびりついた。


今ではもう、それが夢奈と夏鈴のどっちが言ったかなんて覚えていないけれど、そんなのはどうでもよかった。

うまく振る舞い、いい子を演じていたはずがつもりでその実、私は八方美人でしかなかった。

その事実だけが、意識の果てまで追いかけてくる。


私が私である理由って、なに……?


あれからどうやって家まで帰ってきたか、記憶にない。

気づいたら、明かりもつけないまま自室のベッドの上に横になっていた。


そして夜になると、家族が寝静まった時を見計らい、私は家を忍び出た。

こんな精神状態で、寝られるわけがなかった。


それはふらふらと、なにかに誘われるかのように。

ほとんど無意識のような状態で。

私は私を捨て、菫になっていた。