【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


するとその時。

「お姉さん」

アスファルトを映していた私の視界に、ぴかぴかな黒い革靴が入り込んだ。


顔を上げれば、真っ黒なセットアップに身を包んだ茶髪のお兄さんが目の前にいた。


「元気?」

「げ、元気です……」


フレンドリーに声をかけられ、ほんの少し驚いたけど、救われた気持ちもあった。

だんだん自分が暗闇に紛れる透明人間に思えてきていて、だれかの目に映ることができたという安心感があったから。


「ひとり?」

「はい、ひとり、です」

「どこ行くの?」

「えーと、特には決まってなくて……」

「そっか~! それにしても春なのに夜になると寒いね~」

「お兄さん、薄着ですもんね」


今の私は菫だ。

こんな時、菫ならどう切り返すのだろう、そんなことを考えると自然と背筋が伸びてくる。

だって菫はいつだって自信に満ち溢れているから。