「紫苑、大丈夫?」
私を追いかけて図書室に入ってきた夢奈の、心配そうな声が背中にぶつかる。
「ごめん。ほんとに……ほんとに、なんでもないの」
私の声にきっと、それ以上は踏み込むまいという選択に至ったのだろう。
夢奈は声をわざと持ち上げて明るく振る舞い、話題を切り替えた。
「紫苑って、あの柊依くんと知り合いなの? 紫苑って呼ばれてたじゃん。私、びっくりしちゃった」
柊依――その名前にずきんと心に痛みが走る。
脳裏に浮かぶのは、さっき私が私の手で傷つけてしまった、柊依の表情。
「柊依くんって近くで見るともっとかっこよくてドキドキしちゃった。実はずっと気になってたんだよね。よかったら私に紹介してくれない?」
夢奈の言葉に、ぎりりっと心臓に爪をたてられたような痛みを覚えた。
柊依のことを、たった今私は他のだれでもなく自らの手で傷つけてしまった。
そんな私が言えたことじゃないことはわかっている。
それでも柊依は、私が見つけた居場所だった。

