【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


「でも自分のために未来を変えたいと思わないの?」


虹が出たり、時計台の時計が直ったり、桜の木が生えたり。

柊依の書く未来は、いつだって自分よがりとは違う。


でも、少しでもいい生活がしたい、富や名誉を得たい。

それが人間の素直な欲求なのではないだろうか。


すると柊依が静かに口を開く。


「……俺は未来よりも過去を変えたい」


風に乗って耳に届いた声は、耳をすませなければ聞こえないほどか細くて、そして切実な色をはらんでいた。


「え?」


湖のような様相を呈した瞳が揺らいでいるのを見た。


そこには見逃してはいけないなにかが潜んでいる気がして──、けれど。


「紫苑は? なにか叶えたいことねぇの?」


いつものトーンで放たれた柊依の問いかけに、思考を遮られた。


「私? そんなの叶えたいことばっかりだよ。多分、私は人生を進めるのが上手くないみたいだから」


できるだけ重い雰囲気を纏わないよう、努めて明るい声音で言う。


すると柊依は、そんな私の努力もまとめて笑い飛ばした。


「当たり前だろ。1回目の人生なんてみんな初心者なんだから」

「え?」

「未来を予見して最初から最後まで完璧な人生を送れる奴なんていない。みんな大なり小なり失敗して、少しずつ人生を攻略していくんだ」


柊依の双眸が私の目を捕らえて離さない。


「だから焦んな。紫苑なら大丈夫」


吸い込まれるように、抗えなくなる。