すると柊依は空に向かって、軽いトーンで声を飛ばした。
「たしかに菫はマブダチだけど、俺、好きな奴いるし」
「え?」
あの市村柊依に好きな相手がいるなんて、校内きっての大ニュースだ。
驚いて隣を見ると、不意に柊依が頭を動かしてこちらを見た。
音もなく視線がぶつかり合う。
柊依の明るい茶髪が風にそよいでさらさらと揺れる。
お互い寝転がっているというのは、視線が合うにも、いつもと違うシチュエーションだからか変な緊張を抱く。
けど今目をそらしたら、意識していることを認めるようで、目の奥に力を込めて柊依の瞳を見返す。
「どんな子?」
「素直じゃなくて、態度が可愛くなくて、鈍感」
つらつらと並べられていく言葉は、とても好きな相手に対するものには思えなくて。
「えっと……好きなんだよね?」
と確かめれば、柊依はくしゃりと苦笑するように破顔した。
「でも、可愛くて仕方ないんだよな」
柊依の瞳は正直だ。
そして言葉よりも雄弁に語る。
ああ、柊依は本当にその子のことが好きなんだなって、頭よりも先に心で感じてしまう。
こんなにもまっすぐ想われるその子のことを、少しだけ、ほんの少しだけ、羨ましく思った。
ふたりきりで私の隣にいるのに、柊依が違う女の子のことを想っているのは、なんでかあまり気持ちいいものじゃない。
ついに私は、逃げるように視線をそらしてしまった。
再び視界を澄み切った青空が覆う。
「未来日記を使って、その好きな子とくっつけばいいじゃない」
空に向かって投げた自分の声は、少しだけ棘をはらんでいるように思えた。
授業をする先生の声や、合唱が聞こえてくるけれど、どれも遠くにぼんやりとしか聞こえない。
まるで違う世界の出来事のようだ。
「未来日記があればなんでもできるのに。一攫千金とか」
「そんなふうに掴んだ奇跡も成功も虚しいだけだろ」
視線だけで隣を見れば、空を見上げる横顔がそこにはあって、ビー玉のような透明な瞳に真っ青な空が反射している。

