でもやっぱり素直な気持ちを柊依の前で認めるのは恥ずかしい。
「な、なんでもない……っ」
私は無理やりその話題を断ち切る。
そして空気をごまかすために新たな話題の切り口として頭にぽんと浮かんだのは、未来日記のことだった。
「未来日記のこと、だれか知ってるの?」
顔を空に向けたまま声を放つ。
隣の柊依も空を見上げている気配があった。
「いや、紫苑だけ」
それは少しだけ意外な答えだった。
友達の多い柊依のことだから、だれかしらには話していると思ったのだ。
未来日記なんてそそられない人がいるわけがないし、盛り上がる話題としてはこれ以上ない。
でも思い返してみれば、私に話したきっかけも、どちらかと言えば意図しない流れによるものだったかもしれない。
私が学校に遅刻すると取り乱していたら、柊依がその存在のことを話してくれたのだった。
あれがなかったら、柊依は今でもひとりでその秘密を守っていたのかもしれない。
そもそも、未来日記はなぜ柊依の前に現れたのだろう。
私はふと自分が毎日書いている作品のことを思い出した。
未来日記を題材に、私が経験している毎日の出来事をノンフィクションで書き溜めている。
物語が完成したら、いずれどこかの出版社に持ち込みをしたりコンテストに応募したりしたいと思っている。
でも未来日記というある種デリケートなものを扱っているため、その未来日記の所有者である柊依に許可をとらないことには、公に発表することはできない。
とはいえ、その許可をとるには、自分が小説を書いていることを言わなくてはいけないわけで。
私が小説を書いていることを知っているのは、菫だけ。
これまでの友達にも家族にも話していない。
だってもし、自分の夢が馬鹿にされたらと不安だから。
込み上げてくる不安を喉の奥に押し込み、私はか細い声を絞り出した。
「実は私、小説書いてて……」
すると柊依は組んでいた手の上に置いていた頭を浮かせ、驚いたように私を見てきた。
「え! まじ?」
「うん……、趣味程度、なんだけど」
「すげーじゃん、紫苑!」
それは拍子抜けするほどに。
あまりにあっさり、そしてとても肯定的に受け止められ、私は目を瞬かせた。
そうだ、柊依はこういう奴だった。
自分の心の中から、ふーっと質量のある重い力が抜けていくのがわかる。
「それでね、未来日記を題材にした小説書いてるんだけど、どこかに発表したりしてもいい?」
本題を尋ねれば、柊依はそれには答えず、質問で返してきた。
「それって俺は登場する?」
「い、一応するよ」
「じゃ、俺をかっこよく書いてくれるならいいよ」
「ふふ、なにそれ」
「大事だろ。それから俺にもいつか読ませること」
ビー玉のような澄んだ瞳が上目遣いで私の瞳を覗き込み、挑戦的に光る。
自分の書いた小説を読んでもらうということはつまり、自分の心の中を読まれるのと同じ。
でも柊依にはいつか私の心の中を知ってほしいと、なぜかそう思った。
それはもしかしたら、嬉しかったからなのかもしれない。
だって私が小説を書いていることを馬鹿にするどころか、褒めてくれて、その上読みたいという意思表示をしてくれたのだから。
「うん、わかった」
この物語の終着点はどこなのだろう。
今のところまったく考えていないし、よく小説家の人が作るようなこれからのプロットなんて存在しない。
これはあくまで日々起きたことを記録していくノンフィクションだから、自分にもこの先の展開は予想ができないのだ。
でも作品が完結したら、一番に柊依の元に持っていきたい。

