【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


「まぁ、詳しい話はおいおい聞くとして。父さんと母さんには、友達の家だって適当にごまかしておいたから」

「ありがとうございます、助かります……」


いつだって菫様には頭があがらない。

深々と下げた頭をゆっくりと上げながら、一番気になっていたことを切り出す。


「ねぇ、菫。今日って本当に高校休みなの?」

「そうよ。朝早く通達メールが高校から届いたわ」


やっぱり本当だったか。

この時間に菫がまだパジャマを着ているのだから予想のできた答えだけど、現実だと突きつけられると言葉が出なくなる。

ぐうの音も出ないとは、まさにこのことを言うのだろう。


「昨日まではそんな話なかったよね?」

「そうね、急だったから驚いたわ」


菫の声を遠くに聞きながら、私は『明日のお楽しみだな』と自信ありげに笑う柊依の顔を思い出してしまう。


「そっか、ありがと!」


菫との会話を一方的に切り上げると、私は急いで2階にある自室にあがる。

急いで書き留めなければと思ったのだ。


派手な音を立てながら勉強机に座り、お腹のところの鍵がついた引き出しから1冊の大学ノートを取り出すと、記憶が薄れていく前にペンを走らせる。


私の密かな趣味、それが小説を書くこと。

小説を読むことはめっきりだけど、昔から空想することは好きで、自分だけの世界を構築することがひとつの楽しみだった。

小説をあまり読んでこなかったというハンデのおかげで文章は稚拙だけど、いつか自分の本を出版するという夢に向かって自分なりに頑張っていくつかコンテストにも応募している。

だけど、これまでの結果はことごとく惨敗。

話にリアリティーがないだの、共感できないだの、酷評ばかりが突きつけられていた。


けれどもだ。

未来日記なんてものが本当にあるとしたら、これを題材にして面白い物語ができるかもしれない。

だから昨日から今日にかけての出来事を、事細かに記していく。

これは作り話じゃない。事実を元にしたノンフィクションなのだ。


──そう、まさにこれがその物語である。


ペンを走らせる手がどんどん加速していく。

私は夢中になって、新しい物語の中に没頭していった。