朝早くの空港は人が少ない。
無人のターミナルにある大きな窓から、人影に邪魔されず空が一望できる。
ちょうど日が昇るところだった。
空はピンクと水色が混ざり、とても綺麗で壮大な様相を纏っていた。
朝焼けの空を見ていると、なんだか無性に泣きたくなるのはなんだろう。
綺麗なのに、綺麗だからこそ、眩しさが目に沁みてなぜかきゅうっと心が苦しくなる。
旅立ちの日に見る朝焼けの空だからだろうか。
目の前にある大きな空から目を逸らすように、ターミナルにある水色のベンチに座り、ショルダーバックを開く。
中を探っていると、右の人さし指からぶかぶかの指輪が滑り落ちそうになった。
わたしの指のサイズではないから、いつも簡単に外れそうになる。
指輪をはめ直しながら取り出したのは、一冊の文庫本だ。
飛行機の中で読もうと思っていたけれど、手続き開始までの時間つぶしに使うことにした。
その本とは、今話題の『君に贈る物語』だ。
藤澤廻という彗星のごとく現れた新進気鋭の新人作家の物語は、出版されてたちまちSNSで話題になり、若者を中心に人気を博している。
藤澤廻はメディアには一切の露出がなく、その素性に関しては謎のベールに包まれている。
ネット上では「現役高校生」だとか「素顔は国宝級のイケメン」だとか、あることないことまことしやかに囁かれているらしい。
わたしも友達から「椿も読んでみなよ!」と熱くおすすめされ、その推しに根負けする形で、昨日ついに手に取ったのだ。
『君に贈る物語 作者:藤澤廻』
そう印字された扉をめくり、朝焼けの光に照らされながら、物語の中に足を踏み出した――。

