「ほら、呼んで、紫苑」
「うっ……」
さらりと名前を呼ばれたうえに、追い詰められて逃げ場がない。
言葉の先を待つように見つめられて、消え入りそうな声で呟く。
これは助けてもらった恩なのだと自分に言い聞かせながら。
「と、ぅい」
「ん?」
聞こえたくせに、そうやって聞こえないふりをする。
ああ、なんでこんなにもペースにのせられてしまっているんだろう。
「柊依」
開き直ったように言ったら、怒っているみたいになってしまった。
けれど柊依は口元を緩めている。
「ちょっと、へらへらしないで」
「はは、するわ、そりゃ」
こういうところが、モテる所以なのだろうと思う。
下の名前なんて女子から散々呼ばれ慣れているだろうに――実際高校でも「柊依ー!」と女子の声が行き交ってるし――、そういう反応やめてほしい。
私だけ、なんて、そんなバカげた錯覚を起こしそうになる。
……まぁ、そんな手には乗らないけど。
でもこういうテクニックで大勢の女子を落としてきたのだろう。
チャラチャラと軽い男は、やっぱり別世界の存在だ。

