【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


そして次に出てきたのは、一枚の写真。


そこに写るのはわたしと――見知らぬ男の子。

肩を抱き寄せられ照れたように笑うわたしの表情から、彼に恋しているのは一目瞭然だった。


そして。

優しそうな瞳、綺麗な鼻筋、瞳の下に縦に並ぶふたつのほくろ、柔らかそうな明るい髪。

顔をくしゃりとさせて、わたしの隣で笑う彼はきっと、いや間違いなく――。


ぽた、ぽた。

音を立てて、写真の上に涙の粒が落ち、染みを作る。


「君は……」


わたしは指の腹でそうっと写真の彼を撫でた。


「君はだれですか……。やっぱり、思い出せないよ……」


わたしは涙を流しながら、ぎゅうっと下唇を噛みしめた。


その顔を見ても、固く閉じられた記憶の蓋はついに開かなかった。

どんなふうに怒ったり、どんなふうに悲しんだり、どんな声でわたしの名を呼んだりするのか。

ずっと見つめていたはずなのに、思い出すことができない。

今のわたしにとってはこの写真が初対面で、もうこれ以上新しい彼の顔を知ることはできない。


ねぇ、どんなに怖かったかな。

どんなに悔しかったかな。

だれかの記憶から消えることは。