【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように





暖かい陽射しの下を、わたしは歩いていた。

北海道に発つ前に、やるべきことがまだ残っていたからだ。


空模様はわたしの心境とは相反し、春を知らせるようにどこまでも麗らかだ。


閑静な住宅街を歩くこと15分、その場所は見えてきた。

未来日記とシャベルをバッグの中に携え訪れたのは、親しみ慣れた藤公園だ。


小説の中でまだ回収されていないエピソードがあった。

それはわたしと柊依が埋めたタイムカプセルだ。


物語を頭の中で辿りながら、公園を抜け、時計台を越え、藤公園の裏の空き地に足を踏み入れる。

途中、クローバーの群れも見つけた。

小説の中に書かれていたものが違うことなく現実世界でも起こるという感覚は、ひどく不思議なものだった。

けれど、一度同じルートを歩いているはずなのに、私の頭はなんの感慨も生まない。


大体の目星をつけ、荷物と共に未来日記を足下に置くと、シャベルで穴を掘り始めた。


物語の記述から、なんとなくここら辺じゃないかと推測できるけれど、空き地は広大だ。

目印があるわけではない。

その中でタイムカプセルを掘り当てるというのは、途方もなく気の遠くなりそうな作業だった。


でも諦めの気持ちは一ミリとて芽生えなかった。

だって、初めて柊依という存在に手が届くかもしれないのだから。

どれだけ記憶の糸を手繰り寄せようと、手のひらからさらさらとこぼれていく砂のように、その実態を掴めない。

だからようやく柊依に繋がる手がかりを見つけられるかもしれないと思うと、疲れも腕の痛みも時間の経過も、そのなにもかもがわたしの腕を止める障壁には成り得なかった。


わたしはずっと、夢奈と夏鈴との仲違いも、仁香との問題も、“いいこ”を演じていた自分と本当の自分とのギャップも、すべてひとりで闘いひとりで解決したと思っていた。

でも本当は違った。

ずっと隣にいてくれて、とても大きな力でわたしを支えてくれた、一番の味方がいたのだ。

わたしはちっとも独りなんかじゃなかった。

そんな大切な存在のことを、わたしはどうして忘れたままでいられたのだろう。


こんなに苦しくて悲しくて会いたいのに、わたしは君を思い出せない。

柊依。わたしはもう一度君に触れたいよ、柊依……。