でも、それとは相反する菫のもうひとつの思いにも気づいていた。
「紫苑の花言葉は“君を忘れない”だよね」
わたしの声に、菫が涙に濡れた顔をあげる。
小さい頃、菫とどちらがより多くの花言葉を覚えられるか競い合っていたから、花言葉には詳しいのだ。
読んでいた時にはぴんとこなかったけれど、すべてを知った今ならわかる気がする。
「菫は柊依に恋をしていたわたしを忘れない。それから、物語の中だけではわたしが柊依のことを忘れないように……。きっとそういう意味を花言葉に託したんだよね」
わたしの中から完全に柊依が消えることも、菫は心のどこかで耐えられなかったのかもしれない。
『君に贈る物語』、それは双子の妹から他のだれでもなくわたしに贈られた愛だった。
すると菫は顔を俯け、それから鼻を啜りながらどこか力の抜けたような笑みをこぼした。
「なんでもお見通しなのね」
わたしは菫に近づき、そしてその肩を抱き寄せた。
「そりゃあもちろん、わたしはあなたの姉ですから」
そして、丸い頭に顔を摺り寄せる。
「菫、ごめんね、ありがとう」
その瞬間、ふっと菫が息を吸い込んだ。
こらえきれなくなったように、その肩が震えだす。
菫はわたしに肩を抱かれながら、声を押し殺し静かに涙を流し続けた。

