【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


わたしを見つめる菫の表情からはっとしたような色が消え、代わりにすべてを悟り、諦めに似た色が滲む。


「読んだのね」


菫が、読書用の眼鏡を静かに外す。


「これ、わたしのことだよね? 紫苑って、わたしなんでしょ……!?」


菫は高校2年生の秋、藤澤廻というペンネームで『君に贈る物語』を発表した。

出版社に持ち込みをして、それが編集部に認められ、即書籍化が決まったらしい。


元々読書は好きで本の虫だった菫。

けれど彼女が作品を自分で書くというのは初めてのことだった。

あの頃の菫は食事もまともにとらず、家族と会話すらせず、まるでなにかにとりつかれたように来る日も来る日もパソコンに向かい続けた。

昔、『そんなに本が好きなら自分で書いてみればいいのに』と言ったわたしに『ばかね。読むのは好きだけど、書くことにはなんの興味もないの』と言い切った、あの菫が。


菫は『君に贈る物語』が大ヒットしたあとも、わたしに読ませようとはしなかった。

軽い気持ちで『読もうかな』なんて言ったわたしを、菫は制した。

『いつかその日がきたらね』

そう言って。