すると、その時だった。
開け放たれた窓から、ぶわっと初夏の風が吹き込んできたのは。
自由気ままな風は、笑うようにぱらぱらっと未来日記のページを捲った。
そして開かれたのは、今年の12月の真っ白なページ。
閉じて再び今日のページを捲ろうとして――いや、違う。
真っ白じゃない。
12月31日の欄に、俺のものではない字が並んでいた。
柔らかくも几帳面に揃えられた文字たちが。
【来年も柊依と一緒にいられますように】
「……っ」
それを認識した瞬間、頭の中でタイムカプセルを埋めた日の紫苑とのやりとりが思い起こされた。
『書くっていったって、このノートは俺が書かないと意味ないけど』
『いいの。願掛けみたいなものだから』
そう言って紫苑は真剣な眼差しで、未来日記に書きこんでいた。
――俺との未来を。
「ぅう……っ」
ぽたぽたっと、未来日記の上に涙が落ちた。
一度決壊してしまえば、それは理性の利かない衝動となって溢れる。
嗚咽が漏れて、俺は咄嗟に口を手で覆った。
――『柊依』
俺の名前を呼ぶあの声が頭の中でこだまする。
……ごめん。
君の願いを叶えてやれなくて、ごめん。
さよならも言えないまま君の手を離してしまってごめん。
ああ、くらむちゃうだぁは、どんな味なんだろう。
紫苑が作るなら、きっとおいしいんだろうな。
俺がおいしいって言ったら、きっと紫苑は弾けんばかりのあの笑顔を浮かべてくれるんだろうな。
紫苑と迎える明日は何色だったのだろう。

