【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


1階の掃除が終わり、2階の自室に入る。


独り暮らしになり、生活のほとんどをリビングやキッチンのある1階で過ごしているが、勉強や就寝はそれまでの癖でわざわざ2階に上がり自室を利用していた。


部屋の中を掃除していると、ふと机の上に置いている未来日記と、毎日の記録をしている日記帳が目に留まった。

行き場のない気持ちも、取り留めのないこともなにもかも、俺は日記帳に書き留めるようになっていた。


今日はどんなことが書けるのだろう。

きっと紫苑のせいで幸せな日になる。

真っ暗で絶望でしかなかった日々を、待ち遠しく尊いものへと紫苑が変えてしまったのだ。


そんなことを考えて、ふと我に返る。

壁に掛けられた時計に目を走らせれば、時刻は2時50分だった。

約束は3時。

もうすぐチャイムが鳴る頃かと思った、その時。


それは突然、静寂を切り裂くようにスマホの着信音が鳴った。

スラックスパンツのポケットの中で振動を続けるスマホ。

電話の合図だ。


着信相手をまともに確認することなく電話に出ると、直後、悲鳴に似た声が鼓膜を刺激した。


『柊依……っ!』


いつも冷静沈着なその声が取り乱しているのを聞いたことがなくて、相手が菫だと理解するのにほんの少し時間がかかった。


「菫? どうした」


問いながら、心の底が震えているのがわかった。

スマホを持つ手が知らずに強張っていた。


嫌な予感がした。

だって普通じゃない、こんなの。


どうかなんでもないと、そう言ってくれ――。

そんな一縷の望みを打ち砕くように、紫苑は叫んだ。


『紫苑が……! 紫苑が事故に遭って、動かなくて……っ。心臓の音が聞こえない、心臓が止まってるの……っ』