『なんでかわかんないし、こんなの余計なお節介だろうけど……、自分のために笑ってあげて』
それはガツンと脳天を貫かれたような衝撃だった。
時が進むのも忘れて、目を見開き彼女を見上げる。
……なにが可笑しくて俺は笑っていたんだっけ。
最後に心から笑ったのはいつだっただろう。
もう思い出すことさえできない。
心の傷は隠さなきゃいけないんだと思っていた。
弱っている姿なんて、だれも見たくないから。
悩みとは無縁の、いつもへらへらしている俺だけが求められているのを知っていた。
そうして自分を演じているうちに、まわりからは『柊依は悩みがなさそうで羨ましい』と言われるようになった。
でも本当の俺は、あの日からずっと暗闇の中でもがき、助けを求めていた。
悲しみを隠すことばかり上手になった俺の、本当の声に気づいてくれたのは君だけだった。
『この傘あげるから、もう土砂降りの中にいようとしないで』
――それが紫苑との出会い。
君はまるで、土砂降りの雨の中に差す、一筋の光だった。

