【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


はっとしてそちらに顔を向ければ、赤ちゃんを抱っこした女の人が顔を真っ青にしていた。

咄嗟にその視線を辿る。

と、直後、ひゅっと乾いた空気が喉を切った。

ボールを追いかけた小さな男の子が、道路に飛び出していたのだ。


そしてその向こうからは、大型トラックが迫ってきている。

トラック運転手は、しゃがみ込む男の子の存在に気づいていないのか、そのスピードをまったく緩めていない。


――なずな。

その子の名前が、私の知っているあの子と同じ名前だったのは、どんな偶然だったのだろうか。


気づけば、考えるより先に足が地面を蹴っていた。


「紫苑!」


菫の悲鳴が背中にぶつかるけど、足を止めることはできなかった。


道路に飛び込み、男の子の体を歩道に向かって思い切り突き飛ばす。


歩道に突き飛ばされた男の子、迫りくるトラック。

すべてがスローモーションにように見えた。


走馬灯のように、頭の中を柊依の笑顔が巡る。


だめだ……。

私、約束したのに。

柊依のそばから離れないって。

柊依をひとりにしないって。

それなのに……。


直後、感じたことのないほどの激しい衝撃が体を襲った――。




コロコロとシルバーのリングがアスファルトの上を転がった。

リングの内側に刻印された文字、それは――“You are my Reason”。


『ずっと、なんのために生まれてきたかわからなかった。その意味を見つけようって焦ってた。でも今は、その理由をだれかの中に見つけたいなって思う。それはきっととっても幸せなことだから』


――“貴方が私の理由”。