【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


さて。今私が直面している問題は、なにをタイムカプセルに入れるかだ。

何年後に開けることになるかはわからないけど、未来の自分が開けた時、今17歳の自分のことがわかる、そんなものを入れたいと思った。


人生とは短編小説だ。

どこかの地点で今の私を振り返った時、17歳のページに私はなにを書き記したいのだろう。

人間関係で悩んだこと。

そして――初めてできた好きな人。


私は机の中にしまった、キーホルダーを取り出した。

それはこの前、夢奈と夏鈴と一緒に行ったテーマパークでおそろいで買ったキーホルダーだ。

綺麗なガラス玉のキーホルダーで、白、黄色、ピンクをお互いの印象に合わせて選び合った。

私はふたりの意見が見事に揃って、白だった。


これをタイムカプセルに入れて、数年手元になくなってしまうのはなんとなく忍びないけど、でも今の私を表すには最適解な気がした。

代わりにふたりにはなにか違うおそろいのものをプレゼントしようとも考える。


夢奈と夏鈴とは、あの一件のあと少しずつではあるけれど関係を修復できていた。

マイナスからのスタートだと思ったけど、間違いなく今までよりも距離が近くなっている気がする。

前よりも腹を割って話ができるようになったし、素でいられるからふたりといる時間が息苦しくなくなった。


なんとなくふたりから察せられる空気もそうだ。

私に対して心を開いてくれているような、内に入れてくれているような空気を感じるのだ。


一度は崩れて、でもなんとか修復できた人間関係。

これまでの私は一度手放してしまったらもう元には戻せないと、綺麗で傷のない人生を歩まなければいけないと、がちがちに固められた固定観念の中にいた。

でも何度だってやり直せることを、私はようやく知ったのだ。

失敗したからといって、そこですべてが終わるわけじゃない。

その度に何度だってやり直そう。

だれだって間違うし、だれだって迷うのだから。


白い硝子玉のキーホルダーを見つめ、そんな感慨に浸っていると。

突然、部屋のドアがノックされた。


それに応える間もなく、ドアが開く。


「現像したわよ」


そう言って、数枚の紙をぴらぴら見せびらかすように入ってきたのは、菫だ。


「あ、この前遊んだ時の写真?」

「そう。なかなかいい写真が撮れてたわ」


最近、菫はインスタントカメラに凝っている。

なんでも好きな小説にインスタントカメラが登場したのがきっかけらしい。


私と柊依と菫、3人で遊ぶ機会があれからちょくちょくあった。

この前3人で遊んだ時も菫はインスタントカメラを持参し、ちょこちょこカメラに収めていたのだ。


「あんたにあげるわ。柊依とのツーショットほしいでしょ」

「菫さま……!」


菫は私と柊依の関係を、何度もとりもってくれている。

すごく応援されていて、身近にこういう存在がいてくれるのは心強い。


菫は現像したてらしい写真を何枚か私にくれた。


ぱらぱらと写真を見返していると、私と柊依のツーショットも出てきた。

菫が気を利かせて撮ってくれたものだ。


夕陽を背に、柊依に肩を抱き寄せられて写る写真が目に留まる。

ふたりともとても自然でいい笑顔だ。


「それ、いいでしょ」


写真を持つ手元に、菫の声が落ちてくる。

顔を上げれば、菫が大切なものを慈しむように目を細めて写真の中の柊依を見つめていた。


「柊依とは2年の付き合いになるのに、あんたといると見たことなかった笑顔で笑うの。屈託ないっていうか、心の底から笑っているっていうか。ああ、こんなふうに笑うんだって、知らない一面を見た気分になる」


思いがけない言葉に、きゅうっと胸が締めつけられ、思わず声が出なくなる。


私は、私といる時の柊依しか知らない。

でも柊依の笑顔の理由になれていたことが嬉しかった。

私の隣が、少しでも居心地のいいものであってほしかったから。


「あんたといると、柊依の中のなにかが緩むんでしょうね。纏う空気がすごく柔らかくなる」


菫は私に寄り添い、小さく音もなく笑った。


「あんたもすごく幸せそう」

「ほんと……。ね」


写真を見ただけでわかる。

肩を抱き寄せられ笑う私の顔は、他のだれでもなく世界にたったひとりだけ、隣にいる柊依に恋をしている。

鏡の中で毎日見ているはずの自分が、こんなに幸せそうに笑うなんて知らなかった。


私が柊依の笑顔の理由になれていたとしたら、私の笑顔の理由もまた柊依でしかないのだ。


17歳、今の私はこれだと思った。