【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


「大丈夫だよ。私が柊依の隣にいる。絶対に離れない。私は柊依のそばから消えたりしない」


大丈夫だよ。

根拠なんてないけど、私は何度もそう繰り返した。


しっかりしなきゃ、そう思うのに私の声は情けなくもへにょへにょにふやけてしまう。


だから込み上げてくる涙の気配はぐっと飲み込み、喉に力を込める。

この声がぶれることなく柊依に届くようにと。


「私が柊依をひとりにしない」


すると柊依は鼻をすんと啜り、それから感情を落ち着かせるように耳元で長い息を吐き出す。


「ありがとう、紫苑……。俺の明日にいてくれて、ありがとう。もっと早く紫苑と出会いたかった。そしたらなにかが変わってた気がする」


それは独白のように、耳を澄ませなければ拾い上げられないような声。

けれどその声の中に後悔と切なさが滲んだ不穏な影を感じ、さっと嫌な予感が心に走った。


「手遅れなの?」


柊依はなにを言っているのだろう。

不穏な影の正体も理由もわからない。

それなのに息する方法さえ忘れてしまったように、不安に圧迫されて胸が苦しい。


すると柊依はなにも言わずに体をそっと離したかと思うと、体を軽く折り曲げ、私の瞼にキスを落とした。

まるでこれから落ちるであろう私の涙を慈しむように。


そして体を起こした柊依は、残酷なほどに綺麗な笑みを唇に乗せていた。


「柊依……?」

「なぁ、紫苑。俺たち、あの夜より前に出会ってるんだよ。紫苑は覚えてないだろうけど」

「え?」


柊依が静かに微笑みかけてくる。

柊依の中には、私が覚えていない――私にとっては取り留めのない1ぺージがあった。