【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


「え?」

「なんで笑うの? 全然似合ってないよ、その笑顔。だって柊依、泣きそうな顔してる」


私は一歩柊依に近づくと、柊依の頬に右手をそっと添えた。


今更思い知ってしまった。

柊依はいつだってもうひとりの自分を演じて本心に蓋をして、平気なふりをすることばかりが上手になってしまっているのだ。

きっとそれはまわりに心配をかけないように。

まわりが求めるきらきらで明るい〝市村柊依〟を演じるために。


でもその笑顔がうまく笑えていないこと、私はわかる。

だって私も同じように自分を偽っていたから。

だけどそうして自分を偽っているうちに、心の奥に閉じ込めた本当の自分が窒息してしまうことを、私は柊依に出会って気づいた。


「無理に笑わないで。私の前で強がろうとしないでよ」


その瞬間、柊依の心が揺れる音がした。

いや、実際にはそんな音が聞こえるはずなんてない。

それなのにたしかに、柊依の心が揺れた瞬間がわかったのだ。


柊依の表情からじわじわと笑顔が消えていく。

そうしてやがてそこには、泣き出す寸前の子どもみたいにくしゃりと顔を歪める無防備で傷だらけな柊依が現れた。