【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


でもね、大丈夫だよ、柊依。

私は君の前からいなくなったりしないよ。


そう伝えなくてはいけない気がして、宙ぶらりんになっていた腕を柊依の背中に回そうとした時。

私をきつく閉じ込めていた腕が不意に緩んで、柊依が体を離した。

圧迫されていた肺が開放されて、一気に酸素が入ってくる。


「とう、い……?」


顔を上げると、そこには上手にいつもの苦笑を浮かべた柊依がいた。


「悪い。なんかちょっと取り乱した」


……なにそれ。全然笑えてないよ。

なんで笑ってるの?


心に込み上げた違和感が言葉になる、その寸前。


「なにしてんの、ふたりとも」


聞き慣れた声が、それを遮った。


その声に視線を下ろせば、道の先で菫が腕組みをして仁王立ちしていた。

公園で私たちを待っていたけれど、ついに我慢の限界がきたらしい。


「なんでもねぇよ。悪かったな、置き去りにして」


軽い調子で菫に返す柊依は、まったくもっていつもどおりの柊依だ。

その中にさっきの影を見出すことは、不可能にも近い。


「本当よ。ふたりとも、私のこと忘れてない?」

「悪い悪い」


話も空気も、停滞することなくどんどん前に進んでいく。


けれど私は胸の中に湧いた違和感を消化することはできなかった。