【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


どうして柊依がここに?

そんな疑問が浮かんだのも束の間、柊依はこちらに向かって一目散に駆けてくると、走ってきた勢いそのままに私の両肩を思い切り掴んだ。


「無事か!?」


見たことのない激しい剣幕で詰め寄られ、私はびくっと肩を揺らす。


「無事って……、事故のこと? うん、なにもないけど……」


無事もなにも、そんなの見れば一目瞭然なのに。

私の返事を確認して、そこで初めてその事実を受け入れるころができたというように、がくっと柊依の体から力が抜けたのがわかった。


そして柊依はこちらに倒れ掛かるようにして、私を抱きしめた。

私をかき抱くその腕は、まるで消えゆく私に縋りつくようで。


「よかった……」


耳元で安堵の吐息が吐き出される。


けれど突然抱きしめられた私は、平静でいられるわけがない。


「と、柊依?」


突然のことにパニックになっていると。


「紫苑を喪うと思った……」


消え入りそうにか細い声が、私の鼓膜を打った。


「え……?」

「俺は紫苑を喪いたくない」


すぐ近くの車道を、車が走り抜けていく。

車が起こした風が、私と柊依の髪を乱暴に揺らす。


声に潜む意思は頑として必死なのに、震えている。

声を覆う膜はぶれまいとしているのに、ひどく弱々しい。


柊依の声が二面性を孕んで聞こえてくる。

それは柊依の心の不安定さを表しているようだった。