【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


ピアッサーを外せば、小さな穴が柊依の薄い耳たぶに開いていた。

じゃっかん勢いに任せてしまったものの、ピアスの上に並んだその穴は、我ながらいい位置に開いたと思う。


「できた……! 痛かった?」

「や、一瞬だったから全然」


そう言って、不意に柊依が顔を上げた。

その瞬間、10センチもない距離で目が合ってしまった。


──合わせなければよかった。

この目は悪い。

まっすぐに私を見つめてくる、湿った黒い瞳。

一気に心をかっ攫ってしまうほどの凄まじい引力。


そして唐突に気づかされてしまった。

体全体から力が抜け、重なった視線を逸らせない。


切なさと甘酸っぱさと息苦しさが同時に込み上げてくる。

私の手で柊依の体に消えない痕を刻みつけた、その背徳感で満ちる。


このぐちゃぐちゃした感情に、それはまるで心の中のもうひとりの自分が教えてくれたかのように不意に名前がついた。

そしてそれはすっと体に馴染んで、自分の心と一体化する。

まるでずっと前からそこにあったかのように。


「ご、ごめん。ちょっとお手洗い……」


やっとのことで視線を逸らしそれだけ告げると、立ち上がってリビングを出る。

そしてリビングのドアを閉めた瞬間、膝から力が抜けてずるずるとその場にしゃがみ込んだ。


……そうだったんだ。

私、柊依のことが好きなんだ……。


私の心の一番深いところにある気持ち。

生まれたてなのに、心の全部を持っていってしまいそうなくらい強い気持ち。

それは柊依への恋だった。