【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


そして柊依はソファーから降り、私の隣に腰を下ろした。

ある日の記憶に思いを馳せるように、その目を細めて。


「なんか懐かしいな、紫苑が俺ん家いるの」

「私も思い出してた」

「まだ一ヶ月前のことなんだな」

「そうだね」

「その間にいろんなことがあった」

「うん。まさかこんなふうになるなんて思わなかったな」


学校生活という混沌に飲まれ、成す術もなく流され、溺れないよう足をばたばたもがきながら生きていた。

そんな日々はモノクロでなんの感慨もなかった。

けれど柊依は、私の毎日を一瞬で色づけてしまった。


あの日の私に、今の話をしたって信じてもらえないだろう。


すると麦茶をぐいっと呷った柊依が、いたずらげに笑う。


「紫苑、俺のこと嫌いだったろ」


鋭い指摘に虚をつかれる。


まさか気づかれていたなんて。

でもあんなに露骨な態度ばっかりとっていたのだから、それもそうか。


違うよ、そんなことないよ、なんて言うのは簡単だ。

でもここで取り繕うのは違う気がして、私は自分の本心を胸の中から取り出し、言葉にしていく。


「最初は……うん。嫌いっていうか、怖かったのかもしれない」


それは、言葉にすることで初めて理解する事実だった。

けれどそれはすとんと胸の中に馴染んだ。


だってあまりに眩しかったから。

自分にないものをすべて持っているという妬みや僻みは、恐怖心の裏返しだった。