【完】桜の降る日、君の隣で死ねますように


仁香の顔色がさっと変わった。


すぐそこに真実がある。

怖い、けれどもう逃げない。


「なんであの時、もう友達じゃないって言ったの……?」


震える声で問うと、仁香はなにかに躊躇うような間のあとで強い罪悪感を表情に滲ませる。


「紫苑ちゃんのこと傷つけたって、ずっと後悔してたし謝りたかった。急にあんなこと言ってごめんなさい」


頭を下げ、それからゆっくりと頭を上げた仁香は、木製の床に視線を落としたまま言葉を継ぐ。


「……でもね、ショックだったの。あの日紫苑ちゃんは、中井さんが同じクラスだった女子に度の過ぎたからかいをしていても、みんなと一緒に笑って注意もしなかったから」

「え……」


……思い出した。

すべてのきっかけは、中3の時にクラスの一部で横行していたカンニングだった。


内容は、先に授業でテストを受けていたクラスから問題用紙を受け取り、それをメッセージ等で広めていくというもの。

それを先導していたのは中井さんが属するグループだった。


そんなカンニングが横行していると気づいた時、私は驚いたし、よくないことだと思った。

だから、自分の正義に動かされるまま担任の先生に相談したのだ。

このようなカンニングがおこなわれているのだが、どうしたらいいかと。


私はてっきり、これ以上カンニングが起きないよう、他のクラスと同じテストを使わないようにしたり問題用紙を回収したりして、こっそり解決してもらえるものだと思っていた。

けれど、担任はこの話題を、クラスの全員が揃うHRの時間に持ち出してきたのだ。

そしてクラスのみんなの前で、こんこんと説教を始めた。

――カンニングが横行しているらしいが、こんなようじゃ卑怯な大人になるだけだ。勇気を持って先生に教えてくれた逢沢を見習え――


信じていたはずの大人にあっさり手を離され、まるで足下から奈落の底に落ちていくようなこの時の感覚は、多分一生忘れられない。


クラスメイトからの批難の視線が私に向かないわけがなかった。

翌日から私は、クラス中から無視されるようになった。

正義の罰は、透明人間の刑だったというわけだ。


教室という狭い空間の中で私だけが無視されるという状況は、自分の存在が消えていくようで、深く暗い絶望に何度その場から逃げだしたいと思ったかわからない。

自分がだれの目にも映らず、だれにも認識してもらえないというのは、暗闇の中で迷子になったかのような孤独感と、音もなく窒息していくような息苦しさだった。


けれど数か月ののち、クラスメイトの女子が中井さんたちの新たないじめの標的になった。

その空気を察した私は、心の底から安堵したのだ。

ああ、これで私に対するいじめが終わると。

この時心のどこかで私を見ていた自分への失望には、きつく蓋をして見ないふりをした。


それからの私は中井さんたちのご機嫌とりすることにばかり意識が向いていた。

だからいじめを黙認していたし、あの日も彼女をからかう中井さんを止めもしなかった。