「たくや?」



しょうの言葉にハッとした。



「ああ、ごめん」



顔をあげて周りを見渡すと、いつの間にかみんなは部活に行ってしまい教室は静まり返っていた。


あの日、ふたりで唇を合わせた日からもう一年以上が経っていると思うと、なんだか不思議な感覚になる。



「オレさ、たくやに出会えて本当によかった。自分らしく生きれていると思う」


「・・・・・・・自分らしく?」


「だってオレって男じゃん。だけど男を好きになってしまう。それを受け止めてくれる人に出会うことができた」



しょうが今まで男性を好きになった時に、その気持ちを相手に伝えることができたのかはわからない。


ましてや俺たちは今、高校生。


フツウと少し違うだけで悪口を言われたり、いじめの対象になることだってある。


俺もしょうに出会うまではそういったフツウになりたいと思っていたし、フツウから外れてしまうことを恐れていた。


フツウの学生になりたい、フツウに恋愛したい、フツウに過ごしていきたい。


そんな風に「フツウ」だけを求めることが人間にとって当たり前の感情なのだと思っていた。


だけど、そんなの違うんだっていうことを、しょうと出会ってから気がついた。


フツウでいることだけが偉いんじゃない、みんなと一緒だから安心できるんじゃない。


おかしいのは少しみんなと違うだけで、負のレッテルを貼りたがる世の中のほうなのではないか。



「しょう」


「どうした?」


「俺もやっと自分らしく生きれるようになった。本当の自分を受け止めてあげることができるようになった」



もう大丈夫だと思う。


平均とは離れているかもしれない、少数派かもしれない、たまに不思議に思われるかもしれない。


だけどそんな世界で生きている俺としょうの人生は輝いていると思うし、胸を張って生きていけるって今なら言える。