だけど、そんな心臓がざわつく毎日を送っていた俺の生活はある日一変した。
数ヶ月前からじんじんと痛んでいた右膝に耐えられなくなって、俺は近所の整形外科で診てもらうことになった。
膝を痛めることなんて今までもよくあったことだから、大したことないって思っていたし、湿布をもらって貼っていればすぐに良くなるって思っていた。
高齢者が多い病院に高校生の俺がいるのはなんだか居心地が悪くて、とにかく早く診察が終わらないかなってばかり考えながら、スマホのゲームをしながら時間を潰していて。
それくらい膝の痛みのことなんて深くも考えていなかった。
やっと診察が受けられたかと思うと、60代くらいの男性の先生からは「レントゲンを撮らないと判断できません」って言われてしまい一応レントゲンを撮ることになって。
俺はレントゲン室に移動して写真を撮ってもらい、もう1度診察室へと呼ばれた。
スクリーンには俺の膝の写真が何枚も貼られていたけれど、俺にはたんなる骨の写真にしか見えなくて「こんな大袈裟な検査なんてしなくてもいいのに」なんて呑気なことを考えていた。
先生はメガネ越しの目を細めながら写真をじっと見つめた後、よそ見をしていた俺の方に視線を送り、冷静な様子で話し出した。
「疲労骨折ですね。スポーツはかなり負担がかかるのでこれからは控えるようにしてください」
『スポーツを控える』
その言葉の意味がすぐにはわからなくて、数秒間時が止まったような感覚がした。
そしてやっと俺の頭の中で先生の言っていることが噛みくだかれて、理解ができた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。
「え、そんな。俺テニスを生き甲斐にやってきてるんです。テニスがない生活なんて考えられません」
「これ以上膝に負担をかけ続けると、一生支障が続いて歩くのも難しくなります。 だからお辛いかもしれませんが、スポーツは厳しいかと」
先生の声は淡々としていて、俺の心に時計の秒針が規則ただしく刻み込まれていくような感覚だった。
泣きたかった。
涙を流して「なんでだよ」って叫びたかった。
だけど、多分俺は小さく笑うことしかできなくて、そのあとは無言を貫いたまま診察室をあとにした。
途方に暮れる、とはまさにこのことを言うのだとその時はっきりと思った。
外は雨が降っていたけれど、俺は傘もささずに濡れながら病院を出た後、そのまま公園のベンチに座り込んだ。
悔しくて、情けなくて、歯痒くて。
頭の中はぐちゃぐちゃといろんな気持ちが入り混じっていたけれど、真っ先に思い浮かんだのはしょうの顔だった。
一緒に今まで頑張ってきたのに、ペアとしてこれからも一緒に戦っていくつもりだったのに。
俺の夢はきっとふたり同じ夢であることがわかっていた。
しょうといると友達のような、家族のような、恋人のような、そんななんとも言えない気持ちになれて。
それが今まで当たり前だと思っていたし、楽だったし、居心地が良くて、一生続くものだと思っていた。
だけど、そんなの単なる俺の願望にすぎなかったという現実を突きつけられ、視界はゆっくりと歪んでいった。
「しょうに謝らないと。俺はなんでこんなに情けないんだろう」
独り言で呟いた声は掠れていて、俺は小さく震えた手でタオルを顔に押し当てた。
数ヶ月前からじんじんと痛んでいた右膝に耐えられなくなって、俺は近所の整形外科で診てもらうことになった。
膝を痛めることなんて今までもよくあったことだから、大したことないって思っていたし、湿布をもらって貼っていればすぐに良くなるって思っていた。
高齢者が多い病院に高校生の俺がいるのはなんだか居心地が悪くて、とにかく早く診察が終わらないかなってばかり考えながら、スマホのゲームをしながら時間を潰していて。
それくらい膝の痛みのことなんて深くも考えていなかった。
やっと診察が受けられたかと思うと、60代くらいの男性の先生からは「レントゲンを撮らないと判断できません」って言われてしまい一応レントゲンを撮ることになって。
俺はレントゲン室に移動して写真を撮ってもらい、もう1度診察室へと呼ばれた。
スクリーンには俺の膝の写真が何枚も貼られていたけれど、俺にはたんなる骨の写真にしか見えなくて「こんな大袈裟な検査なんてしなくてもいいのに」なんて呑気なことを考えていた。
先生はメガネ越しの目を細めながら写真をじっと見つめた後、よそ見をしていた俺の方に視線を送り、冷静な様子で話し出した。
「疲労骨折ですね。スポーツはかなり負担がかかるのでこれからは控えるようにしてください」
『スポーツを控える』
その言葉の意味がすぐにはわからなくて、数秒間時が止まったような感覚がした。
そしてやっと俺の頭の中で先生の言っていることが噛みくだかれて、理解ができた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。
「え、そんな。俺テニスを生き甲斐にやってきてるんです。テニスがない生活なんて考えられません」
「これ以上膝に負担をかけ続けると、一生支障が続いて歩くのも難しくなります。 だからお辛いかもしれませんが、スポーツは厳しいかと」
先生の声は淡々としていて、俺の心に時計の秒針が規則ただしく刻み込まれていくような感覚だった。
泣きたかった。
涙を流して「なんでだよ」って叫びたかった。
だけど、多分俺は小さく笑うことしかできなくて、そのあとは無言を貫いたまま診察室をあとにした。
途方に暮れる、とはまさにこのことを言うのだとその時はっきりと思った。
外は雨が降っていたけれど、俺は傘もささずに濡れながら病院を出た後、そのまま公園のベンチに座り込んだ。
悔しくて、情けなくて、歯痒くて。
頭の中はぐちゃぐちゃといろんな気持ちが入り混じっていたけれど、真っ先に思い浮かんだのはしょうの顔だった。
一緒に今まで頑張ってきたのに、ペアとしてこれからも一緒に戦っていくつもりだったのに。
俺の夢はきっとふたり同じ夢であることがわかっていた。
しょうといると友達のような、家族のような、恋人のような、そんななんとも言えない気持ちになれて。
それが今まで当たり前だと思っていたし、楽だったし、居心地が良くて、一生続くものだと思っていた。
だけど、そんなの単なる俺の願望にすぎなかったという現実を突きつけられ、視界はゆっくりと歪んでいった。
「しょうに謝らないと。俺はなんでこんなに情けないんだろう」
独り言で呟いた声は掠れていて、俺は小さく震えた手でタオルを顔に押し当てた。