フライパンを手にしてから油を入れて、キャベツのかけらを入れ、卵を割り、菜箸で混ぜてしょうゆで味付けをした。
うん、見た目もいいし、これは食べれると思い、出来上がったことを母さんに大きい声で言った。
「母さん、出来たよ! じゃあ、食べよう!」
 俺が言ってから後ろを振り返ると、母さんはいなかった。
 もしかして、トイレなのかなと思い、母さん!と呼ぶが、ドアを開けてもいなかった。
 部屋全体を見渡しても、いなかった。ドアから出るには、台所の傍のドアしかない。
 もしかして、昨日鍵かけてなかったか? 昨日のことを思い出すと、かけていなかった。
 俺が最後に閉めて、何もしていなかった。そっとドアを開けて、出て行ったのだ。
 俺はサンダルを急いで履いて、外に出た。
 左右を見渡すが、どこにもいなかった。
 いないので、一か八か右に行き、真っ直ぐ走り出した。
 ハアハアハアハア。息を切らして、走っていると、目の前には母さんがいた。その隣には、兄貴がいた。
「母さん、心配したんだよ。何してたの?」
 俺は怪我もない母さんを見て、ほっとした。
 息を整えて、母さんの両肩を揺らして元気そうな表情で俺を見つめていた。
「………そうなの? お兄ちゃん?」
 母さんは隣にいる兄貴に話しかけていた。
「ああ、心配していたようだよ。家に戻ろう」
 兄貴は母さんの腕を組んで、母さんと家に戻ろうとした。
「うん」
 母さんは兄貴に返事をして、嬉しそうにしていた。
 昨日までは兄貴の場所が俺の位置だったのに。
 俺は母さんと兄貴が歩くのを見て、母さんたちに付いていくかのように歩いた。
 家に着くと、母さんは兄貴から離れなかった。
 兄貴は俺に話すことがあるらしく、俺を呼んだ。
「なに、話して?」
 俺は怪訝そうな表情を浮かべて、兄貴に聞いた。
「……今日、母さんと話したか?」