そこには今宮が体育すわりをして顔を膝につけて眠っていた。
「この子、知り合い?」
 母さんはえへへとご機嫌そうにしていた。怒るのではなく、悲しんでもいなかった。
 面倒なことにならなくてよかった。
「ああ、母さんは家に入ってて。この人、どうにかするから」
 今宮が体育座りで俺の家の前にいたのだ。俺は目を瞑って開けてから寝ている彼女を見る。
 彼女はスヤスヤと寝ているのか一向に目を覚まさない。
 これで二度目の彼女の寝ている姿だ。
「俺のために来たのか? それとも、思い出したか」
 俺は寝ている彼女を横目に聞いた。聞いても聞こえるわけないのに。
 彼女はうーんとうなされていた。
「おい、今宮。今宮。今宮! 起きろ!」
 俺が今宮の両肩を揺らして、声をかける。
「うーん」
 まだ彼女はうなされていて、声を出していた。すると、目を開けていた。
「帰ってたの…」
 彼女は確かにそう言った。
「……なにしてんだ」
「待ってたの」
「なんで?」
 俺は目を細めて聞いた
「工藤が心配で」
 彼女は俺を心配してくれたのだ。それが俺にとって心配されるのがとても嬉しくて、今宮といると心が冷たい水から温かいものに変わっていく。
 母さんが今宮とまだ話していることに気づき、俺は今宮を帰した。
 彼女は後ろを振り返って俺を見てから前を歩いていた。
 俺は母さんと家に入り、いつもの生活に戻った。
 一瞬でも光り輝いていた場面が、グレーとなり光が失われた。
「家の前にいた子、誰なの?」
 母さんは床に座り込んで、聞いてきた。
「クラスメイト」
 俺は買ってきた袋を開けて、ペットボトルは台所の傍に置いて、違うものもいつもの定位置の場所に置いた。
「それ以下でもそれ以上でもないの?」
 母さんは今宮が家の前にいたことを気にしているのか、聞いてきた。
「ああ。それより、夕食、買ってきたやつでいいよね」