「今宮は今宮なりに考えることがあるから。それを自分で考えてほしいんです」
 俺は今宮の想いを汲み取るように今宮の母に真っ直ぐに伝える。
「そうなのね。ありがとう、工藤君。工藤君も自分のことを考えていいのよ」
 今宮の母は俺を見て微笑んで、俺の肩を叩いて感謝を述べていた。
「え?」
 感謝の言葉を聞いて、俺は驚いた。久しぶりに聞いた言葉だったからだ。
 さっきほどもありがとうと言われたが、感謝とともに俺のことを心配して言ってもらえて嬉しかったからだ。
 両親が離婚してから、兄・父・母から感謝や心配の言葉を言われたことがなかった。
「そんな驚くこと?」
 今宮の母は俺を見て、目を丸くしていた。
「俺に言ってるんですか」
 自分に指をさして、今宮の母に聞いた。
「そうよ。だって、工藤君、宙のこと心配してくれてありがたいんだよ」
 今宮の母も俺を指して、そうと返事をして嬉しそうに言ってきた。
「……いえ、そんな」
 俺は今宮の母に下を向いて、返事をした。
 信じられなかった。ありがたいという言葉に俺は涙が出そうになった。
「宙も想ってくれるだけで嬉しいと思うし、言葉に表さないけど。よろしくね」
 今宮の母は横になっている今宮を見てから、笑顔で俺に声を発していた。
 今宮を届けた後、俺は今宮の母に礼を言って、外に出た。
 俺は今宮の母に言われた感謝の言葉が、頭の中で感謝ワードがスローモーションでよぎってくる。
 ありがとう、ありがたい、嬉しい。ポジティブな言葉に俺は戸惑いを隠せない。
 俺はそんな明るい言葉を受け止めて、心の中でホカホカ弁当が出来上がったように心が温かくなった。その思いを握りしめて歩いていると俺のズボンに入っていた携帯のバイブ音が鳴り響いた。携帯を握りしめて、電話をしてきたのは六弥だった。