私は両頬を工藤の両手で抑えつけられ、話しづらくタコみたいな顔をしていた。
「俺を見ろ!」
 工藤は抑えつけられている私の泳いだ目を見ながら、工藤の言葉が私の胸に釘が刺さった。
 刺さって釘が抜かれた胸は血が出て、処置が出来ない。
「…なに? 見てどうするのよ」
 私は赤くなっている目を工藤の真っ直ぐな目を見据えていて、目を逸らすことができない。
 涙目に震える声で言っている私を工藤はただ見つめているだけだった。
「……今宮の世界は確かに現実だ。それはただの米粒でしかないんだ」
 工藤は潤った目を私とあわせていたが、彼は多分泣いている。
 私に言っているはずなのに彼は悲しみでいっぱいで自分に言い聞かせているように私は聞こえた。
「……泣いてるの?」
 私は彼に聞くと、首を振っていた。
「……っ、泣いてない。ただただ空しいんだ」
 彼は私の両頬を掴んだまま、下を俯いて再度私を見つめ直してからやつれた声で言う。
 彼は気づいていない。自分のことのように言っていることに。
「……じゃあ、私の目を見て」
 私は工藤が言っていた言葉を言い返す。
「……はっ、なに俺と同じこと言ってんだ」
 工藤は下を向いてから苦笑いを浮かべて、私に声を発した。
「同じこと言わないと、工藤も泣いちゃうでしょ。笑おう、工藤。何もかも忘れて」
 私は彼の両頬を両手で掴んで、彼の潤っている目を見据えながら、微笑して言う。
「………っははは」
 彼は笑って、一筋の涙を流して、私の目を見据えて口を開けて笑っていた。
 彼の目はあの時感じた諦めたような目であった。
 品川先生に反抗して、もうどうしようもなくなっている感じと似ていた。
 私も彼と同じように笑った。口を開けて、今まであまり使っていない顔の筋肉を使ったせいか疲れてきた。だけど、私は彼が笑うのをやめるまで続けた。