私は驚いた。確かに誰かの視線を感じていたかもしれない。
 自分のことと工藤の件でなんだか慌ただしかったから。
「気づかなかった?」
 工藤はニコッと微笑んで、気づかなかった私を見て心の中では笑っているのだろう。
「いや、全然」
 私は気づかなかったことを工藤に伝える。
「そう」
 工藤はニヤッと笑って返事をした後、また寝に入った。
「ちょっと…まだ話し終わってないでしょ」
 私は寝に入った工藤の背中を叩きつけてから、廊下側にいる女子二人組を見ると、また顔を隠していた。
 私に何か用事でもあるのかな。なんで私を見るのだろう。
 疑問に思えてきた。私はいつも通り授業を受けて、いつもの日々を過ごしていた。
 結局、私は部活動に入らなかった。学校生活に馴染めていないというか……。
 このクラスにいるだけで疲れてしまうから。部活動なんてやってたら、身も心も疲れる。
「ただいま~」
 私は靴を玄関先で脱いでから、家にいるであろう父・母さんに声を出したら、意外にも父さんが出てきた。
「父さん」
 私は目を丸くして、父さんを見る。
「おかえり」
 父さんはエプロン姿で私を出迎えていた。
「なんで父さんが」
 父さんは持っていたフライパンを手にしていて、なんとも楽しそうな表情を浮かべていた。
「お母さんは急な仕事が入って、急遽父さんが帰ってきてこうして作っているという訳です。どう? 久しぶりのお父さんのエプロン姿」
 父さんはエプロン姿を持ち、片足を曲げて、聞いてきた。
「……似合う、似合う」
 私は感情なく、平坦な声かつ真顔で自分の部屋に戻った。
 それから、部屋に戻って、部屋着に着替えた。
 スウェットと半袖を肌に通して、ため息をついた。
 両親は私が学校でどんな思いをして過ごしているのか。分からない。
 私が平気な顔して笑ったり話したりするから気づいていないはずだ。